7月7日
さて、今回は前説が普段以上に長くなるがたまにはこんなパターンも良いかと思う。
カートリッジと限らない。試聴についてのお話し。
こうしたことをせっせとやるオーディオもあれば、縁なきままに進むオーディオもある。
縁なき人にしてみると、一体どうやって違いを見つけたりしているのだろう?と疑問に思えてくるかもしれない。
一体どうやって機器の違いを聴きだすのか。あるいは描き出すのか。
僕の場合はだいぶ観念的に見分け(聴き分ける)ていると思う。
つまり全体を見て大局的に、そこに描かれる世界の違いを掴むということ。
あるレコードの特定の部分がどう聴こえるか。こう聴こえたから良いとか、
そうでないからだダメだ、とかいう風には聴かない。
言い方を変えると、トータル判断、ということか。
文章にすると偉そうな感じで嫌だが、別に威張っているつもりは無いのでご了承いただきたい。
7月8日
さて、今回登場のカートリッジ群をご紹介。全部DL-103系なのだが…
DL-103初期型(70年代前半。三鷹工場製)艶あり黒
DL-103GOLD(中身はノーマル同等。三鷹工場製)当然金色
DL-103通常型(80?90年代と推察。白河工場製)黒つや消し
DL-103R 。黒で金文字で103Rの表記あり
DL-103SA 。あるいは最後の派生モデル。濃いブルー
課題?は製造時期での音の違い。
その意味ではごく普通のDL-103を年代別に揃えて聴き比べるのが本来という見方もあるが
現実問題、それをやっても得られる物は無いに等しいと思われる。
だから上記チョイスは非常に的を得ているのである。さすがGさんなのだ。
そうそう、大切な事を書いておきたい。今回のカートリッジ群のオーナーはGさんなのである。
さすがついでにもう一ついうと、今回シェルはAT-LS18で統一(103SAのみ異なる)。
シェルリード線はごく普通の一般品ということで他要素の入り込みを可能な限り排している、
これを迎え撃つ?よっしーの部屋の環境だが
プレーヤーはKP-1100。(シートはJP-501)
フォノイコはHX-10000
プリはSY-99
メインがHMA-9500
スピーカー SS-G7
というラインアップ。
つまりいつもの装置でプレーヤーのみ新規(でもないが)参入のKP-1100なのだが
これはアームが優秀かつ重量級にも十分対応しているという点がポイント。
さて…
7月9日
いよいよ本題だが今回の場合は五本のカートリッジを最初に全部、ざざっと聴いてしまった。
ひとつひとつを丹念に聴いて…とも思ったが違いを見つける、という場合には
スピードを上げないと前の印象がどんどん消えて行ってしまう。
まして同一カートリッジの型番違いとなると、激しい違いというのは考え難いので
スピードアップは(よっしーにしては)賢明なやり方だと思う。
DL-103初期→DL-103ゴールド→DL-103通常版→DL-103R→DL-103SA
この順で全部をさっくり聴いた。
そして翌日に上記の逆順でもう一度聴きなおした。
お陰様でその結果違いはちゃんと出た。それをこれから記す。
ではスタート。
7月10日
真夏の饗宴。カートリッジは生産時期によって音が違うか?の開幕開幕〜
こうしたテーマにもってこいなのがDL-103であることは間違いない。
いや、他のカートリッジでは駄目だろう。なにしろこれだけ長い間
基本形はそのままに、途中に色々なバリエーションを挟んだモデルなんて
無いだろう。
その生い立ちについては今ではあちこちで読むことが出来るし、よっしーだって
昔取り上げているから割愛。
…なのだが多少は触れておこう。
DL-103の誕生は1964年。NHK技研との共同開発だった。
要するに放送局で使用する目的で作られたのが103。
前身にPU-7Dが存在するが針圧6gと、やや古典的だった。
ということで業務用だったのだが好評につき市販も開始。それが1970年。
以来55年、なのだから永い。人に歴史あり。103にも歴史あり。
その103が市販され始めた頃は現行と違ってボディに光沢があった。これは確か。目で見ればわかる。
問題は音な訳だが、さて、どうか?
当初の予想ではこのモデルが一番パワフルなのではあるまいか?なんて事もあったのだが
結果としてはそんな事は無かった。
どちらかというと丁寧さにこそ特徴があって
丹念に、綺麗に、しかし騒ぎ過ぎずに音楽を描くタイプという判定になった。
このモデルだけが特異なモデルとかそんな風には感じない。
ただ、その後の物と完全同一でもない。
それがどうしたと言われたら返す言葉も無い。
なんというか、刑事コロンボで言ったら
このモデルはパイロット版で作られた「殺人処方箋」なのである。
その後のモデルは「死者の身代金」とか「構想の死角」とか、「パイルD3の壁」とか
の立ち位置なのだ。
そんなことがしみじみ分かっただけでも大収穫だったと思う僕だった。
7月11日
あ、あ、あ、イミテーションごーおおお〜♪
…ではない、DL-103ゴールドである。
発売は1982年。DL-103生誕20周年モデルということで、
それを基準にすると103は昭和38年生まれということになる。
ただ、ちょっと引っかかるのが1982年の雑誌をあちこちひっくり返しても
テスト記事はおろか小さな広告すら見つからない。
まさか1982年説に偽りはあるまいが、ひょっとして…という事はあるからご用心。
だがしかし、発売時期にわずかばかりの間違いがあろうがなかろうが
大局をみると関係ないと言えば関係ない。
DL-103ゴールド。文字通り金ぴかの103である。
成人を迎えた我が子に金屏風を…という事では無いだろうが
いかにも日本らしい発想と言えば発想だ。
ピカピカの一年生ならぬ金ぴかの20年生?
基本スペックは無印103と同一(とされている)。
金線を使っている、とかあると面白いがそれは無さそうだ。
インピーダンス40Ω。
さあ、これで音はどうか?
聴いてびっくり。
一聴現代的な音。
スケール感があって繊細さもある。これで十分。
しなやかさがある。
もうカートリッジというのはこれで充分なのでは?と思ってしまう。
更に刺激的な物はこの世に沢山あるが、
それは化粧に慣れ過ぎた女性を見て喜ぶに等しく、
通なら103みたいな女性を選ぶべし、という所だろう。
7月12日
さて、次に控えしは通常版?のDL-103。
艶の無い黒ボディ。
実にそっけなく。しかしそこが良いと103を愛する人は語る。
ところでよっしーと103の出会いは割と遅かった。
2005年か2006年の事だった。
一言でいうと縁が無かったのである。
変な話しだが、手にしてこれでやっと一人前になった気がした。
スピーカーだと1000M。
アンプだったら907。
プレーヤーだったらテクニクスのダイレクト。
その辺を(所有しないまでも)経験していないと
オーディオについて語ってはいけないような感覚。
おわかりいただけるだろうか?
今回ご登場の103は推定生産時期は'80年代〜'90年代と
幅広く。しかし103艶ありや103ゴールドが三鷹工場製だったのに対し
白川工場製では、とされる物。
で、まあ音はどうか?という話しなのだが…
しばらく黙って聴いていたのだが妙な気持になった。
簡単にいうと音が好いのである。
活発元気若々しい。
歌が埋もれるくらい、は大げさだがバンドに力が入る。
時々高低が過剰なのでは?とさえ思わせる。しかししなやかさはある。
これぞ日本の標準時刻敵フィーリングで、
地名で行ったら白川ではなくて明石だ。
103ゴールドから薄皮を剥いで、より現代調へと脱皮。
生産時期の違いによるものと断定するのは危険だが
やはり製品というのは図らずも進化してしまうのか、
あるいは生産からの経過年数は少ないに越したことは無いのか?
これはちょっと驚かされてしまった。
7月13日
DL-103R。
グッと新しくなったと思って、良く考えたらこれだって登場は
1994年。
驚け、30年以上前なのだ。
当時は28,000円で買えたけど、今幾ら?
基本設計はもちろん変わらないが発電コイルを6N化。
それからインピーダンスが14Ωになっている。
103のインピーダンスについても過去に触れたことがあるが
オリジナルが40Ωで始まっている。
その後103Dで33Ωが出現。
103SLで14Ω。
103GLは40Ω。
103C1が14Ω。
103FLは30Ω。
この間出力はほぼ変っていないのだからインピーダンスが
低い物達はコイルの巻き数が減った分マグネットが強い物になっていると
想像出来る。
すなわち良い、悪いではなくて音に変化はあるはずなのだ。
さて…
7月14日
黒ボディにゴールドの字体でちょっとゴージャス感ある103Rの音は?
、
これはひとつ前に聴いていた無印103に準ずる。
ただ、パリッと鳴る。張りがある。ハッキリした物言い。
こうした各要素がほんの僅かだが強調される。
近代的な調子に103を持って行ったカートリッジ。それが103Rなのだろう。
しかし、良くぞこれだけ音調を変えないでリファイン出来た物だと感心してしまう。
個人的な好みを言ってしまうとRよりも無印。あるいはゴールドを取るかもしれない。
カートリッジと限らないが、どこに主眼を置くかが異ることで、
強調される音もあればスポットライトから外れてしまう音も出てくる。
結果的に音楽の聴こえ方が違ってくるのだ。
無印103や103ゴールドの方が全体の照明としては少し暗いのだが隅々まで良いバランスで当たっている状態。
それに対してRでは演者に強めに当ててその分背景への当たりは弱まる。
そんな違いに感じる。
文章に書くとスゴイ違いがあるように思われるかもしれいないが、そこまで違いは無いから無印を選んでもRを
選んでもガッカリも後悔も無い。
もう一つ言うと今回みたいに比較対象が前の前にある場合は違いにも気づくが、そうでなければ気にもならないと思う。
考えすぎてはいけないと思いたい。
7月15日
DL-103SA。
今回登場の中では最も新しい。
…とは言っても2007年発売だから既に18年くらい前の製品なのだ。驚いてしまう。
DL-103の累計出荷50万本を記念して2,000本限定で発売された。当時70,000円。
コイルは6N。
ボディ(ハウジング)にはグラスファイバーコンポジットを採用。
角も適度にラウンドしているがきっとここでも音が変わるのだろう。
インピーダンスは14Ω。
ということでDL-103R寄りの音がするカートリッジ、と思いたかったのだが…