4月24日
”ひとりぼっちで窓に腰掛け
ギター弾いてた
子供の頃寂しさだけが友達だったよ
でも今夜はあの娘と二人 海までドライブ
DJお願い 聴かせておくれ 素敵なR&R
いかしたR&B"
4月25日
どこかで冗談で、”中学生の頃はFM放送だけが友達でした”と言ったら
半ば本気で心配された。(ありがとう)
だが、どこか本当だった気もする。
いや、別に友達は居たのだが例えば大人の話を訊きたいというか、
端的に言ってしまえばクラスの奴らと話しても仕方ないしな、みたいな気持ちで
ラジオのスイッチを入れていた気がする。
大切なのは音楽。なのだがやはり喋りも重要だった。
やはり話し手によって番組の面白さは左右される。
で、AM放送だとそれらの人はアナウンサーと呼び、FMだとDJと呼んでいた。
考えてみると不思議なことだ。
DJ=ディスクジョッキー。ではその定義は?
僕が親しんだFM番組では(いや、別にAMでも同じだったのだと思うが)
選曲やその曲についての解説をする人。
そしてアーティストを迎えればインタビューなどして番組を進めていく人、みたいな感じだった。
あ、そうそう、視聴者からのはがきを読んで応えたりするという大切な仕事もあった。
今思い出したが以上はパーソナリティ、なんて意味合いもあったのだな。
さてしかし昔だとラジオ番組の中に登場するばかりだったDJも今ではクラブなどでその名を訊くことの方が多くなっている。
場がクラブなどになっても役割の基本は同じだが、ターンテーブルを一つの演奏装置。楽器と見立てて
扱う辺りが放送などのDJとちょっと違うところだ。
と、前置きが長くなったがここでDJ用カートリッジのお話に移る。
いや、というのもFM放送に限って言えば、その場合カートリッジはDL-103であるとかDL-107と言うことになると思うのだが
それらをDJカートリッジと呼ぶことは無い。
つまり今日いう所のDJカートリッジとは、いわゆるスクラッチプレイをする目的などに適う物の事を指すわけだ。
そこで必要とされるのは安定感だったり、ラフな操作に耐えうる堅牢さだったりする。
4月26日
…と、二日も引っ張ったところで本題である。
ご登場はテクニクス。EPC-U1200なるカートリッジ。
初見のカートリッジである。
調べてみると発売は2001年ごろ。SL-1200シリーズのシェルへの取り付けが簡単にできるように
ボディにタップ付きのねじ止め構造が施されている。
出力は高く6,0mV。針圧2g。重さ5,5g。
これはもう典型的なDJカートリッジのスペックである。
いや、実はそんな事を調べなくてもわかるのだ。なにせボディ正面に"DJ"と大きく書かれている。
我が家にもいわゆるDJカートリッジというのは幾つかある。
どれも似たようなスペックだがここまで明瞭にDJ仕様とわかるものも珍しい。
こうなると音の方もあらかた想像は付く…とかなんとか思いながら針を下ろすと…
ほらね、だいたい予想通り…
…通り…
のはずが何だか変である。
何が変って、普通のカートリッジの音がしている。
いや、前述のように複数のDJ用カートリッジと付き合い、それらの良さもわかって居るつもりの僕だから
いわゆる偏見は持っていない(つもり)だ。
ただ、このU1200の音は過去経験したどのDJカートリッジとも一線を画す…どころか二線か三線くらい画すの趣だ。
すげえやばい転校生が来るぞ、と噂が立って、クラス一同身構えて待っていたら
とんでもない常識人がやって来た、みたいな感じである。
敢えて言えばやはりドライ傾向で、逆にいうとウエットな表現は意識しないようにしている様なところがあるが
この辺はイコライザー含め下流の工夫次第とも言えるから問題ない。
そして私は気づいてしまった。
何に、って、何故このカートリッジがDJの看板を掲げてリリースされたかの秘密に、である。
出生が2001年あたりという所にヒントが隠されていた。
そう、今でこそ復活の二文字の踊るアナログレコードの世界だがその頃はまだそんな段階ではない。
そんな時に新規でアナログカートリッジを出そうというのである。まともな企画書を書いたのでは通るはずがない。
そこで考えられたのが”DJ用ですよ、課長。ほら、今クラブとかで大人気!これを弊社の1200にくっつけて使えば
スーパースターも夢じゃない!”と言ったかどうかは知らないが”しょーがねーなー、売れなかったらお前南の島な”
と言うことでハンコは押されたに違いない。
こうして世を欺く形でリリースされた”DJの名を語るカートリッジ”。それがEPC-U1200なのである(嘘)。
冗談だよ、と言いたいが、あながち冗談では無いのかもしれない。そんな風に思わせる疑惑のDJカートリッジ。
U1200はそんなカートリッジだ。
4月27日
ニッポンジン信用できない、ということで異国に救いを求める。
やっぱりデンマークである。オルトフォンである。
見よ、コンコルド。DJはやはりこれである。流麗さが、見ただけで違う?
なのだがこれ、VMSのコンコルドではないみたい。
VMSのコンコルドを本物コンコルドと呼ぶとしたらこれはそれよりずっと重いタイプだ。
何分にも元祖コンコルドは重さ6,5g。くしゃみすると飛んで行ってしまうくらいの軽さ。
いくら何でもローマス過ぎるということで15gのコンコルドSTDが後追いで登場。
ところが今回のそれは更に重い16,5g。
そう、MC-200なのである。
1982年頃68,000円はかなりの高級機。
なにしろMC-L10が6万円だったのである。
さて、シェル一体で16,5gではあるがカートリッジ本体はその先っぽに付いている訳で、
これは本当に小さい。
この時開発されたリングマグネット磁気回路があればこそのサイズである。
振動系ではセレクティブダンピングを採用。
これはMC-30やMC-20MK2などで採用が始まったものだが2Wayダンパーとでも呼ぶべき優れた発想のもの。
そしてカンチレバーはボロン丸棒。針はファインライン針。
3Ωで0,09mVの出力。
と、言うことで間違ってもスクラッチとかはやらない方が良さそうなので普通に拝聴することにしよう。
(当たり前)
4月28日
それにしても軽い部類なのでW-2ウエイトの片割れが付いているという
不思議なWE-308Nではアームパイプ先端に
半田を大量に巻いてやっとバランス。
EPA-100でも針圧掛けるとウエイトはほぼ前端と
アーム選びには慎重にならざるを得ない。
ちなみにリアルタイムでこのカートリッジを愛用した傳先生は
クラフトのAC-3000MCシルバーを宛がっておられた。
ただしSL-1200系のアームでももちろん問題なく使える設定なので
あまり極端な事は考えない方が良い。
さて音だがその前に聴いていたEPC-U1200で十分じゃないかと思っていたのに
MC-200が出てきたらやはり違いに驚いてしまう。
あっという間に色気が出て来てニュアンスも違う。急に良い香水が振りかけられたかのようだ。
そのくせ音の芯は大変しっかりしている。
線の細い感じの転校生が来て、一発締めてやろうと思ったらエライ筋肉質で
”これは止めて置こう”と決断せざるを得なかった。
そんな感じなのだが、これはカンチレバーがボロンパイプではなくて
ボロン丸棒なのが効いていると想像する。
リファレンスに成りうる一本だ。世界は広い。
4月29日
さて、次はDJネタ。いや、DJボケが使えない。
ある意味正統派の。これぞ日本のMCカートリッジとでもいうべき存在。
DL-304登場である。
このシリーズの始祖となるDL-303が登場したのが1979年のことである。
脱DL-103を目指した、DENONとしては初めての空芯MCだった。
その後301も生まれ301は301Aへと発展。それが1984年ごろの事。
304は303の後継機種…とはどこにも書かれていないが並び順を考えたら
303のMK2的。あるいは発展型と考えて間違いは無いだろう。
ちなみにDL-302も生まれ、これは301系と見られる。
別に305があるが、これはDL-1000系への足掛かりにもなった。
万能感という意味では303、304がDENON空芯の中心と言って良いと思われる。
その304は1984年当時46,000円。
アルミテーパード二重構造カンチレバー。特殊楕円針。
小型十字型ボビン。新開発ダンパー採用。
出力電圧0,18m。インピーダンス40Ω。
自重7g。
さて、その音は?
4月30日
その音は…
うーん、日本の夏。キンチョーの…ならぬ日本のMC。DENONの…と申すべきか。
正統派の音が聴ける。
繊細でふわっと広がる感じはピカイチ。
腰の座りはMC-200に一歩譲るがエレガントさでその分を取り返すかもしれない。
ま、こうしてそれぞれのカートリッジの良さを確かめると幾らでも欲しい欲しい病が止まらなくなるわけだ。
最後に補足だがカートリッジは三つとも二つのプレーヤーとプリで聴いている。
GT-2000+WE-308N+SY-88という流れがひとつ。
もう一つはMU31D/TS+EPA-100+HX-10000+SY-99だ。
そして共通して、GT-2000からの流れの方が印象は良かった。
何故なのかわからない。一つ想像だがアームではないかと思う。
WE-308Nの方が合うカートリッジというのも少なくない。