2月17日
ふるさとへ帰りたい。
人はなぜか遠い過去へと想いを馳せる。
忘れらない原点みたいなものがある。…と思う。
オーディオに限って言うと、僕の原点はビクターのシスコンである。
その中でアナログプレーヤーと言えばJL-F35M。
1976年当時37,500円。フルオートマティックプレーヤーで同社のZ-1Sカートリッジ付属。
重量9,2Kgと4万円未満のプレーヤーの中ではトップクラスの重さ。
…なのだが、中学生の頃のよっしーはこのプレーヤーが今一つ好きになれなかった。
理由は実に下らなくて、ベルトドライブプレーヤーだという事。
何しろ時代はダイレクトドライブだったし、出来たらクオーツロックだった。
ワウフラッター0,06%。DD達は0,03%とか言っている。気のせいか音が揺れて聞こえるのだ。(単なる錯覚)
そしてフルオートプレーヤー。
どうやらマニュアルプレーヤーの方が音が好いらしいではないか。
そして便利なはずのフルオート機構がよっしーには不向きだった。これは本当だ。
どうも間違ってレバーを操作してしまう。
”なめてんのか、お前は”と毒づくが別にプレーヤーは言われた通り動いているだけだ。
ということでキライなはずのこのプレーヤーなのだが、ざっと10年以上は付き合った。
要するにつべこべ言っても買い替える金なんて無かったのだ。
それが'90年に入りGT-2000の生産終了がアナウンスされた時、いよいよまともなアナログプレーヤーが手に入らなくなる、
と焦って購入。哀れ古女房は追い出されてしまったのだった。
2月18日
それから何年過ぎただろう。なんてものじゃなくて、ざっくり35年くらい経過してしまった。
思えば遠くへ来たもんだ。
そうして年を経てみると気になるのはあの少年期に使っていたコンポたち。
あのプレーヤー、今使ったらどんな感じなんだろう?という思いは、実は20年以上前から持ち続けていた。
で、まあドフなんかでは似た品番の物にはちょくちょく出くわす。
ただ、ずばり同じものと言うのが案外出てこない。
まあオクで探せば簡単なのだが今一つ面白く無い。
…と、いつものように訳の分からない事を言っている内に時は流れ…
ところがこの間ついに出会ってしまったのだ、ばっちり同じ個体に。
あ、と呟いて黙ってしまう。
なんだか遠い昔に捨ててしまった犬とどこかで再会してしまったような感覚?(犬を捨てたことは無い)
値段をみると税込み1,100円…
自分が侮辱されたような気持になったが怒っても仕方ない。
保証ありません、とか返品できませんとかいうお決まりの文句も上の空で訊いて店を後にする。
「早く家に帰ろうね…」と抱き込むように持ち帰る。
2月19日
さあ、今日からここが君の家だよ、という感じで運び込んでしげしげみると驚くほど綺麗な個体だ。
ダストカバー以外傷なし。
セットしようと持ち上げるとずっしり重い。
驚くなかれベルトは付いているのだ。しかも生きている。
操作なんか体が覚えている。それくらい付き合ったプレーヤーだ。
しかし音は変だ?
要するにプラッターの回転がおかしいのである。
?
モーターは元気に回っているしな?と言うことで悩むがそれも3分くらいだ。
結果をいうと軸が固着していた。完全な固着である。
プラッターが回っていたのは軸は回らずその周りを擦るように回っていた訳で、
それじゃあまともな回転になるわけがない。
しかし経験というのは恐ろしいもので、マッハの速さでヒートガンのお出まし。
バーっとあぶって見事に解決。軸は回る。
ついでに抜き取ってCRCにて洗浄と油さし。
軸の底にはボールが一つ。古典的な軸受けである。
これで無事音が聴けるようになった。
ところがプラッターを回すと”ブ〜ン”というハムみたいなノイズが?
解決までこれは時間を要したがモーターを吊るところのねじを緩めたら収まった。
あるいは防振ゴムが劣化していて、そうした作業が必要だったのか?
わからないが解決したのだから良しとする。
この状態でサンスイ907MOS LTDに繋いでスピーカーはロジャースLS5/9。
最初はジムテックVV。それからDENON DL-32と付けてみていよいよ本命?Z-1Eへ。
本来はZ-1Sなのだが'85年くらいからはよっしーはZ-1Eを付けて聴いていたのだから良いだろう。
さて、針を下ろすと…
2月20日
おお〜、これが昔聴いていた音だ〜、とは思わなかった。
アンプとスピーカーのグレードが当時とは違い過ぎる。
しかし一言で言えば好い音だ。
このプレーヤーで何の問題があったのだろう?と首を傾げるというか昔の己の馬鹿っぷりに呆れてしまう。
一応理屈を付けよう。
まず、このプレーヤー、ずっしり重い。10キロにちょっと欠けるくらいだ。
やはり重いは正義なのか。
重い理由を探るとボディも剛性が高いが(高くないとオートプレーヤーには向かない)、
底板も厚い鉄板でコンプライアンスが低い。これは絶対に音に効く。
インシュレーターは思いのほか柔軟性を持っているがプレーヤーの重みが効いてか実際にはどっしり根を生やす感じになる。
そしてアームは同時期のUAシリーズに相通じるTHタイプ。音が悪い筈がないのである。
プラッターは薄っぺらで軽く頼りないが、プレーヤー総重量対プラッター重量比と言う意味では正しいのかもしれない。
シートの質は悪いかもしれないが交換したら音が良くなるとは限らない。
2月21日
以上思いっきり身びいきしてみたがたぶん嘘ではない。
新ためてZ-1Sの丸針など挿して聴いてみるも、そんなに極端な違いは感じない。
ただしシャキッと切れ良く決めてくるとことはEの方が良いのは確か。
単純に丸針と楕円針の違いだけでなくテンションワイヤーの有無も効いていることだろう。
ま、そんなことはどうでも良くて、中学生の頃から持っている、ほんの4枚くらいだったかのレコードを聴いてみる。
良く飽きもせず同じレコードばかり聴いていたと思うのだがカセットデッキも無かったからエアチェックして、という訳にも
行かなかったからどうしようも無かったのだ。
そしてそれでよかったのだと思う。
繰り返し同じことを言うが、簡単に手に入ることは必ずしも幸せにはつながらない。
それは便利、というだけだ。
便利、は一時(いっとき)幸せを感じさせてくれるが慣れやすいものでもある。
当たり前になってしまえば、それはただの”便利”に落ち着いてしまう。
崇高なものであり続けさせたければ簡単に手に入るようにしてはいけないのだ。
ひっくり返すと、簡単に手に入るようになってしまえば価値は下がるということだ。
それで何が悪い?と言われたらなにも悪くない。ただ、あまりにも簡単に音楽が手に入ってしまう現状が
可哀想でならないということだ。
2月22日
このプレーヤー、JL-F35Mでレコードを聴くとき、僕の心はまるであの時の少年のようになります、
とは言わない。
ただ、50年前の事を思い出すきっかけにはなる。
試しに、と僕が初めて買ってもらったLPレコード、「森進一 ベストコレクション1976」を再生してみると大変良い音だ。
それにしても、これをチョイスする中学生って…(;^ω^)
目下一番の悩みは、「なんだこれで十分だったんじゃないか」との思いから、
「これまでの50年、一体何をやっていたんだろう?」
と考えて落ち込み気味だということか。
2月23日
JL-F35MにはZ-1Sか、譲ってもZ-1Eと思うのだが過去において35Mで
カートリッジ交換というのをやったことが無かった
(カートリッジを買えなかった)ので試したくなった。
実際は写真にあるカートリッジの倍くらいを試したのだが”これだ”というものになかなか行き当たらなかった。
例えばAT-15Ea。その分厚い低音が今回は仇になった。
AT-ML180(針は140)は良い味を出していたが場合によって神経質さが目立ってしまった。
これは言い方を変えるとカートリッジの違いを明確に紡ぎだすということでもあるし、
もしかしたら守備範囲は狭いのかもしれないということになる。
現時点ではビクターのU-1Eが良い結果を出しているが、考えてみればU-1Eの中身はZ-1なのだ。
結果が良くて当たり前か?
それよりも22gあるこのカートリッジを35Mのアームが余裕をもって受け止めていることの方が驚きだ。