6月25日
昔々この国に4チャンネル戦争なる物が勃発したらしい。
時、昭和45年ごろ。そう、前回の大阪万博の頃のことだ。
こんにちはこんにちは。世界の国から〜♪とか言いながら内戦をやっていたのだ。
4チャンネルサラウンド自体は結構だが、方式が乱立した。
マトリックスだ。CD-4だ。ニンバス方式だと賑やかだ。
賑やかなのは良いがユーザーは混乱する。
そのせいもあってか騒げど普及せず。
以降4チャンネルという言葉は禁断の単語になったとかならなかったとか…
しかし4チャンネル戦争が残したプラスの物もあった。
その一つがカートリッジの再生能力の広帯域化だ。
それまで20KHzが再生できれば良いとされていたのが40KHz,50KHzまでの再生が必須とされた。
初めて50KHzの再生に成功したと言われるのが1971年発売のビクター4MD-1Xだ。
ポイントの一つは柴田針の採用。
その後各社続けとばかりラインコンタクト針を使うようになる。
そんなわけで4MD-1Xは歴史に名を遺す一本となった。
6月26日
6月27日
これは?
そう、4MD-1Xの。なんとデッドストック品だ。
正真正銘の未使用品。未開封。
こんなもんがひょっこり出てきてしまうのがドフ巡りの醍醐味だろう。
最近入荷したんですか?と訊いたら半年くらい前だという。よく残っていたナ。
さて、その前に4MD-1Xの原型的位置づけの
MD-1016というカートリッジのことについて少々。
このカートリッジ、ドフを巡っていてもよく出くわす。
それだけ数が出たということか。
'70年代中頃になってZ1系にとって代わられるまで大活躍。
これの針を柴田針にしたのが4MD-1Xと言われるのだが本当にボディは共通なのかは不明。
柴田針の4DT-1Xや、同5Xはノブが白。
その他は色も色々で緑もあれば黒もあり黄色もある。
一応針の型番で33Gが標準的。33Hが元気系。デリケートな33Sと言われるが本当だろうか。
1016は我が家だけでも3本くらいは転がっているのだが針の状態がイマイチだったりするのが多い。
辛うじて元気なのは皮肉にもOEMタイプなのだがこれの音は元気が売りの感じ。
低域が厚くて高い方がやや大人し目か。
正直どこか魅力がある音、ではないのだが、さてしかし柴田針の4MD-1Xはどうか?
初の50KHz達成カートリッジの存在意義は果たしてあるのか?
それにしてもほぼ50年近く開封されることが無かったカートリッジ。
開ける時にはさすがに緊張する。
いっそこのままにしておいて、と思ったが、やはり鳴らさないでおくのも罪だ。
シェルからリード線まで全部揃っているのでそれらを素直に使う。
さあ、半世紀待たせた。今解き放たれるのだ、君は。
*手前にMD-1060
6月28日
音が出た。
出た瞬間、これは別物とすぐわかった。
ごめんなさい。他の1016は要らない。柴田針のこれだけあれば良い。
実に明瞭で、それが音の立体感に繋がっている。前後感などとても良い。
エコーの分離もわかりやすい。
これが50年前のカートリッジなのか?
というか、50年前、このカートリッジの本領を発揮させるだけの
システムが日本にどれくらい存在したか?
甚だ疑問ではある。
しばらく呆れながら聴くがレコード半面行かない内にアームを上げてしまった。
勿体ないやら畏れ多いやらで小心者丸出しだ。
でも、許してほしい。
あるいは高松塚古墳を発掘してしまった面々の気持ちは
こんな感じだったのではないか。
開けてしまったのだから責任を持たなくてはいけない。
だが、もしかすると、発見の報告などせずに
そっと扉を閉めて、見なかった事にしたかった。
そんな気持ちもあったに違いない。
と、勝手にそう思っている。
僕のために、では無いにしても
よく50年、待っていてくれたな4MD-1Xよ。