3月3日
ロングセラー商品というのがある。
スピーカーだとNS-1000Mなどがそれにあたる。
といってもとっくに製造は終わっている。
もっと長く…というと誰でも思い当たる物にDL-103カートリッジがある。
DENONがNHKの厳しい要請にこたえて作ったMCカートリッジ。
NHK FMの音はDL-103の音だと言われる。
1950年にPUC-3が生まれるがこれはモノラルMCカートリッジ。
1960年頃にステレオ用のPUC-7Dが開発される。
そしてDL-103が生まれたのが1965年。
しばらくは放送局用、的位置づけだったがこれを1970年4月に市販が始まった。
以来50年以上に渡って販売がされているのだから、これは凄い。
振り返って、よっしーがオーディオなるものに手を染め始めた1976年ごろに
DL-103は”MC”という不思議な形式の、数少ないカートリッジであった。
当時16,000円くらいだったか、あんまり目立たない存在だった。
まだMM全盛の時代であり、スターはシュアーのV-15Type3だった。
MCが一躍スターダムにのし上がったのは1976年頃にアメリカで一大ブームが起きて
それが翌年日本に上陸してからのことなのだが、MCの時代が来たら来たで
綺羅星のようなカートリッジ達に囲まれて、DL-103に陽が当たることは無かった。
3月4日
DL-103こそ正義?なのだ、という声はむしろ20世紀近くになってあちこちから聞かれた気がするが
僕だけの感覚だろうか?
そういう僕の手元にある103シリーズは、というと103Dと103SL。
そして針を自分でかけつぎした103Sがある。
肝心の無印103はあるにはあるがある時断線してしまいそれっきりである。
色々な方のご厚情で限定品の103はほぼ全部聴いた。
どれも素晴らしい製品達であったし、何より懐かしい思い出である。
さて、だがしかしオーディオマニアの端くれとして無印103の生きたのが手元に無いというのは
いかにも片手落ちのような気がしながら過ごしたここ数年。
いや、まあ103であればいつでも買えるし、という気持ちがまた決断を先延ばしにさせるのだな、これが。
ここで103に関することでもう一つ。
実は過去において103で大変感銘を受ける音を聴いたことがある。
それは色々なお宅でのこととなるのだが、とりわけ数年前にkoyamaさんのところで拝聴した初期型103。
これは凄かった。
同時にテクニカのART-1000とビクターのL1000を聴いて、もちろんワイドレンジ感という点では両雄に聴き劣りするのだが
内声の充実ぶりと来たらそんじょそこらで聴けるものではなかった。
もちろん、音というのは複雑な事情で決まるものだから単に初期型の103を手に入れたら同じ思いができるとは
思わないのだが、どうもあの艶ありボディには何かあるような気が、この時した。
そして昨年末、Gさん宅でも初期型103に遭遇。
やはりこれは一本持っておかないといけないな、との思いを強くしたのだった。
だが昨今のなんでも高いアナログブームの煽りを受けて初期型103の相場も高騰気味。
札束で頬を叩くような買い方はよっしーの好みではない=単に可処分所得に問題あり、ということでじっと待つ日々が過ぎる。
そうこうする内に初期型だが針折れというのに出くわした。
ま、それもよいじゃないか、ということでゲット。
3月5日
それもよいじゃないか…
いや、良くない。針が無ければ音が出ない。
ということで今回は業者に任せた。
富山のオデオさんだったかに依頼。
こちらは103も多数針修復の実績がある。
ポイントは本体に残るカンチレバーに上手に被さるサイズのカンチレバーを常備しているかどうか?である。
失礼ながらそれさえあれば仕事は既に九合目である。
ということで戻ってきた個体は立派なカンチレバー付きである。
チップは接合だろう。
改めて眺めればつやつやボディはやはりレアな感じがしてよろしい。
だが待てよ、シェルが必要だ。当たり前だが。
どうしよう?と思ったが今回久しぶりにSAECのセラミック。18g物をチョイス。
これに103を付けると合計28gくらいまで行く。
それは承知なのでEPA-100にサブウエイトを付けて針圧は針圧計で実測して使用。
ベストとは言いかねる使い方だが早く音を聴きたいからこれでよい。
さあ音だ。
音だが…
3月6日
音だがこれはもう威風堂々というか久しぶりにカートリッジによる音の違い、なんてのを強く感じた。
それくらい主張がはっきりしているというか、これが正解だとすると他の物はどこか間違っているということになるのか?
SY-99のMC入力との相性もあるのだろうがパワフルで音の実在感が凄い。
野太い低音に支えられた音の世界は聴くものを魅了する。
しばらくそのまま聴くが気になるところがゼロではない。
簡単に言ってしまうと高域の方が伸び切らないというか一本調子というか…
で、ある。
ここでふと思うのは、今の音を決めているのはDL-103だけではなく、サエクの18gのシェルも含めてではないか?ということ。
103はハイコンというわけでもないから重いシェルも悪くないはず。
だが、シェルは常に重い方が良いとは限らない。また鳴かないのが良いとも言い切れない。
昔散々やったがシェルはカートリッジに物凄く影響する。言い方を変えるとそれで音作りがかなり出来てしまう。
現状の音も魅力的だが、もっとその先があるのでは?と思うと矢も楯もたまらず、となるのがマニアの常。
さて…
3月7日
どうしたものか?と考えてヤマハHS-11だっけ?
正しくはGT-2000純正のシェルである。ウチの場合は。
ちょっと極端かな?と思ったがそれくらい変化をつけるのもよいだろう、ということで決行。
決行、は良いが、ここで注釈。
シェルの交換、リード線の交換というのは多少なりともカートリッジ破壊の危険を伴う。
調子に乗って気軽にやることは全くおすすめしない。
さてと、とアームも大幅に調整し直して試聴。
おっと、これはかなり音が変わる。
簡単にいうと華やぎが出てきた。全体にバランスが良い。
ただ、なんというか薄口醤油の世界。
トータルでとっても良いのだがどこかよゐこの感じ。
ね、人間って勝手でしょ?
時間を掛けて聴こうと思ったのだけどどうにも我慢がならない。
しかし、では何に換えればよいのかというとわからない。
軽めで攻めるか、重めで攻めるか、だがSAECの18gの時の音に捨てがたい魅力があったのも確かなので重めを振ってみる。
なにかというとそれは…
3月8日
ビクターPH-L1000だ。重さ16gとSAECより2g軽い。
軽いだけでなく素材も違うわけでそこに賭けてみる。
第一音を聴いて、少なくともヤマハHS-11よりはこちらの方が合うことがわかる。
音に一本筋が通るというかカッチリ、ガッチリしてくる。
あえて言えば例えば松田さんが高域をうんと伸ばして来た時にキツくなる一歩手前のシビアさを感じるが
この辺は調整可能な範囲だし、なによりシェルとカートリッジボディの馴染みというのは時間が掛かるのでそこも大きい。
これでしばらく聴いてみようと思い色々試す。
MU-31D/TS+EPA-100をメインにしているが
GT-2000+WE407/23なんて組み合わせにも合う。
ガッチリ感を押し出すならこっちの方がマッチベターかもしれない。
…とかなんとか言いながら夜も更けてから聴いたA級外盤のヴァイオリンとギターを聴いて驚いた。
音が美しいのは当然だが音場をよく描く。
俗っぽいレコードも上手に鳴らすが優秀録音において本領発揮か。
これは恐れ入った。
3月9日
ひとつやり残していたことがあった。
よっしーの部屋でアナログを聴くとき現在は主にSY-99に直接挿すかHX-10000で受けて
ということになるのだが
つまりトランス受けは無いということになる。
そもそもトランスを一つしか持っていないが、それはDENONのAU-300LCであり、
103を受けるのにそれを使ってみないのは何か間違っている気もする。
ということでAU-300LCで受けてSY-99のMMへ。
先に言っておくと、よっしーはトランス音痴というか昇圧音痴であり
ヘッドアンプだからハイゲインだから、あるいはトランスだからと言われてもピンとこない口だ。
だが今回は大変良い感じをトランス受けからも感じる。
柄にもないことを言うと音場の純度が一段上がる感じ。
要は何で受けても自由なのだから気分次第で切り替えれば良い。
なんとも贅沢なお話ではあるが…
改めてDL-103。
あくまでも103は103…
と言っていた人がある時その103からびっくりする音を出して
「ああ、俺はわかっていなかった…」と反省するのはよくあるパターンだが
よっしーも齢60を過ぎてやっとその境地に達したのか。あるいは初期型マジックに掛かったのか。
とりあえず今のところは接合ダイヤのチップ付きカンチレバーを移植したデメリットは感じていない。
というかこれで十分という感じ。これも不思議な気分だ。
今もホイットニーヒューストンを聴いているのだが、あまりに魅力的な音で困ってしまっている。
色々とやらなければならない事もあるというのに、沼に落ちてはい出せない感じ。
まあ大変おめでたいことなのでしばらく浸かっていようかと思う次第。
3月10日
最近は初期型DL-103でひたすらレコードを聴いている。
大変幸せな気分だ。
だからそのままにしていれば良いのだが、すぐ何かを始めてしまう。
やたらと装置がある弊害である。
この音は初期型103独自の物なのか?あるいは他の103でも、ひょっとしたら出てくるものなのか?
気になりだすと居ても立っても居られない。
そこで103DをGT-2000に付けて、HX-10000を経由してSY-99に導いて聞いてみることにした。
すると、これも良い音だ。
ただ、やはり初期型103と同じとはならない。当然だが。
何が違うのかというと、音の実在感かもしれない。
103Dの方は逆に言うとちょっと大人しくエレガントということかもしれない。
あるいはHX経由だからか?と思いSYのフォノにダイレクトに入れてみるとこちらの方が力感は得やすい。
しかし、そもそもプレーヤーが違うわけだし、条件は同一ではないのだ。
さらにいうと103Dのシェルは、悪いものではないがある意味ありきたりの物だ。
この辺も差に結びついているのかもしれない。
3月11日
この日がやって来た。
被災地の復興は終わっていない。
それだけは忘れないようにしたい。
さて、ここまで進んで来てさらに試してみたいことが出てきた。
それは103Sだ。
いや、僕の103Sは自己修理品である。
何年も前に四国のドフでビニールパッケージに入れられて壁に掛けられ2500円、
みたいな感じで売られていた針折れ品。
僕がカンチレバーのかけつぎをしてあげるからね、なんて思って捕獲したくせにその後放置。
やっと腰を上げて我が家のカンチレバーかけつぎ成功第一号になったのが少し前のことである。
針折れのMCカートリッジに適当なMMの交換針を切って付けて音はまともなのか?
実はそれを検証することもなく、かけつぎ成功で大喜びして終わらせてしまったというのが正直なところ。
今回の初期型103のかけつぎ修理品が大変に良い音を出している事から鑑みて、
もしかして僕の修理品103Sも良いんじゃないか?なんて思って引っ張り出して来て、さて音を出してみると…
出してみると…
これがひ…
3月12日
これが酷い音である(-_-;)
ここ数日聴き続けてきた初期型103。103Dと比べてあまりに違う。格下も格下。ランクが違うにもほどがある、という感じ。
いやー、素人の補修品なんてこんな物かと苦笑いしたがふと気になったのがシェル。
DENONのシェルで型番不詳だが、ある意味れっきとした純正組み合わせ。
しかし、いかにも軽くペナペナ。
軽い物が常に悪い訳ではないが今回は猛烈に気になった。
そしてすっかり褪色したアントレーのリード線。これもいかがなものか…
疑わしきは罰せず、ただ交換するのみ。ということであっという間にシェル交換。
リード線も併せて交換。SAECの18gだ。色も白いので103Sの白にも合う。
GT-2000+WE407/23でウエイトはいきなり後ろの方に。
さてさて音は…
3月12日
音だが豹変である。
思わず目が点というか耳が点というか…
なじゃこりゃ?という位の変化。
これなら「これ、俺が直したカートリッジなんだ」と言って聴かせても恥はかかない。
ということなのだが、ここまで来て思うのはシェルの重要性。
何が何でも炭化ケイ素やセラミック製を使おうとは言わないが(そもそもそこまで数を揃えられない)、
アルミ削り出し位は使いたいと思わざるを得ない。
今回のケースでいうと103Dだけが普通のシェルであり、そこで音の限界が決められてしまっている気がするが、
この想像はあながち間違っていないだろう。
現在手元に80〜90個のカートリッジがあるが、その内アルミ削り出し以上のシェルが宛がわれているのは
何本くらいあるのだろう?と考えると自己批判をしたくなる。
もう一つはリード線である。
これの重要性も今日では定着しているが、例えばモスビンさんのリード線など使ってみると
同じカートリッジがあれよあれよという間に高音質に成っていってしまうので驚くばかりなのだ。
ただ、トータルの費用バランスも考えざるを得ない。
2万円のカートリッジに3万円のシェル。5万円のリード線もありだが、果たして…と思ってしまう。
いや、でも本当に自分が惚れたカートリッジのためならそれもアリか。
要はそこまで惚れるカートリッジがあるか否か?
そこに尽きるかな?
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