5月20日
SONY VC20。
先日別個体の蘇生について触れたばかりだが、これは今回新規購入した物。
同じものを二個三個と手に入れ始めて一人前である?
しつこい様だがこれはSATIN形式を使っているSONYのシェル一体型MCカートリッジである。
先に登場している個体は北陸のドフで購入。それなりの値段がした物で動作に異常はない様に思えたが
音は今一つでガッカリ君だった。
しかしそれを先月パーツクリーナーとシリコンスプレーでメンテしたところ音は激変。
初めて本領を発揮したというべきか、これも第一級の音がし始めた。
そこに二個目が現れたら、それは買うだろう。
しかも今回の物はジャンク扱いで、”音は出ましたが歪んでいます”なんて書いてある。
もう絶対に支持部が固まっていると見た。
針はちゃんとしているので最悪でも交換針として使えるのもポイント。
さてさて、しかし実際に音を出してみたら驚いた。
5月21日
実際に音を出してみたら驚いた。
確かに音は左右出ているので断線等は無いが、今時こんなひどい音も無いだろうというくらいの
もそもそサウンド。
しかも定位が右に左に踊っている?
様子を見る気にもなれなかったので早速針ユニットを外してカンチレバーの支持部を接眼鏡で覗いてみてビックリ。
一号機に勝る汚れ方というか、訳の分からない状態になっている。
汚れだけならパーツクリーナーとシリコンスプレーで何とか出来る自信はあったのだが
この個体には例えば何かのカンチレバーの折れた部分が刺さっていたり(!)するではないか。
何をどうしたらそんなことになるのか意味不明だが、何か理由があったのだろう。
よっしーの手元には電子顕微鏡なんて無いし、あるのはアナログの接眼鏡とか
爪楊枝とかだけだ。あとピンセット。
壊さないかとハラハラしながら、謎のカンチレバーの断片を撤去。
だがそんなもんで問題解決するほど甘くない。
まあ、この段階になると段々大胆になってくる。
パーツクリーナーとシリコンスプレーの噴霧を繰り返す。
やっと支持部が良く見えるようになって再び驚く。
なんと…
5月22日
拙者接写があまり上手くない、としゃれている場合ではないのだが
本当に本当に下手だ。
なので手書きで線を入れて説明するのだが
青い線がカンチレバーが位置する、つまりセンター。
それに対して赤い線は、SATIN形式独特のパンタグラフを表す。
当然ながらパンタグラフのセンターも青い線と同じ位置に無くてはならないのだが
見事にずれている。
こ、これは…
思わず声が出るが、出すべきはカートリッジの音であって
よっしーの声ではない。
この原因は何か?と考えた時、このアーマチュアの根本がまだグリスで固まっていて
あと一歩正常な動きを出来ないから、というのが希望的推測。
そうであれば洗浄を繰り返すことで解決する可能性がある。
だが、よく見ると単に位置が正面から見て右側にずれているだけでなく、
アーマチュア全体に捻じれのようなものを感じる。
これをピンセットで摘まんで修正なんてのは絶望的に難しい。
いや、もうどうしたものかと悩んだが男一匹やるしかない。
両手が開かないとどうにもならないという事で眼鏡タイプの接眼鏡を購入。
これと、あと使う道具といえば爪楊枝が二本だけである。
カートリッジが動かないように貼り付けるのにマスキングテープは使う。
動画で説明できると良いが無理な相談なので文字での解説だが、
つまりパンタグラフをカートリッジの前方と後方から
爪楊枝で挟む形にして少しづつ力を加えて
形状補正。
折れたら最後である。
しかし天祐我にあり。なんと補正できたのである。
やった本人がその成功を信じられないというのも困ったものだが、要は結果である。
さて、しかしこれで音はちゃんとしたものが出るのか?
あるいは途中で断線なんかしていないか?
疑念をぬぐい切れぬ内に音出しへ。
5月23日
さて…
…なんと音も無事に出た。
これは良い。当然だが買って帰って最初に出した音とは雲泥の差である。
というか、多分生産ラインを出た時よりも良い音で鳴っている?
このカートリッジ、基本的にグリス過多である。
支持機構を守るためにはそれが正解だったのかもしれないが、音には絶対マイナス。
それはさておき、これもやはり優れたカートリッジである。
ただ、同じ(本当は同じじゃない?)SATINのM7-8Cと比べると差がついてしまう。
特に生々しさという点では違いが出る。
しかしこれは設計思想の違いとでも言うべきことで、大騒ぎしても仕方ない。
例えば例の支持機構がカンチレバーのどのあたりと接するか、と見た時にVC-20は
カンチレバー先端から見て5ミリ以上はダンパー寄りの位置が接点となっている。
この位置はカンチレバー先端寄り。ダイヤチップ直上に近いほどダイレクトカップルに近づくのだから
距離が長ければ長いだけダイレクト感は減退するのは当然だ。
ま、そんなことはどうでもよい。
一本。SONY SATINのカートリッジを蘇生することに成功した。
この喜びは大きい。
設計者の皆さん。生産者の皆さん。
世の中には奇特な人が居て、皆さんが40年位前に手がけたカートリッジを
必死こいて立ち直らせたりしているんですよ。
良いもの作ってくれてありがとう。
焦点深度っていうんですか?
合わせるの難しいのよね。
富士山型のアーチのセンターにカンチレバーが載っているのが
わかると嬉しいです。
5月24日
いつもこのページを見守ってくださっているTさんから
SATINの広告(M-11/E)を頂戴した。
手持ちの資料が少ないことを察してのことである。
本当にありがたい。
しかし字が小さいというか、
理屈で誌面を埋め尽くしてしまう感じが
さすがSATINと唸ってしまう。
そしてもうひとつ。
こちらはオーディオの大先輩であるある方から
「SATINにシリコンスプレーは素晴らしい」とお褒めの言葉を頂戴した。
いや、書き忘れたかもしれないが、このやり方を教えてくださったのは
milonさんである。よっしーはただの猿真似。
ただ、どうやらSATINにシリコンオイルは大変良いみたいで
僕も改めて今度M117の方にももっと遠慮なく噴霧してみようと思う。
SATINにつきものの、ある種のシビアさが緩和されるようで音にも良い。
SATINの社長さんにも聴いてほしかったかも。