5月15日
昔京都にサテン音響なるメーカーがあった。
社長は塚原兼吉さん。
東北大学、そして大学院卒業。
学校の先生を始めた頃にオーディオというか音楽再生に目覚めたという。
フェアチャイルドのカートリッジを手に入れたい、などと探し回るが叶わず、
また高価でもあったため、であれば自分で作ってしまおうと思ったのが
創業のきっかけになられた様子。
昭和31年、モノラルカートリッジM-1発表。
当初よりあいまいさを嫌い、磁気歪を避けて空芯MC形式採用。
昇圧トランスの磁性材も避けたくて高出力MCとした。
また、ゴムも嫌いグリースの滑り摩擦制動と電磁制動のみにたよった。
M-3でステレオ化。
M-8でアーチ形ダンパー採用。
昭和45年のM-15でゴムを追放。
その後はM-117、M-18、M-21などマニアに支持される製品をリリースし続けることになる。
奇をてらったわけでなく、原理原則に忠実であろうとし続けた結果、
ともするとアクロバティックな面も持つが、それがまたマニアの心をくすぐるし、
おのずと教徒、あるいは信者を生むことにもつながるのだった。
残念ながらすでに会社も無いし創業者の塚原さんも鬼籍に入られて随分経つ。
話しは変わり、その京都の片隅にBBGオーディオなるショップがある。
正に知る人ぞ知るという感じのお店だが中に入るとびっくりする。
というか最初は眩暈すらする。
なんというかタイムスリップでもした感じ。
ショーケースにはアナログカートリッジやトーンアームなどの
アナログ関連品がずらり。
もちろんプレーヤー関係、アンプ関係他も所せましと
展示されている。
ハードオフ巡りの中に必ず織り込まれるのだが
ここはドフとは違ってれっきとしたオーディオショップである。
そのショーケースにかねてから展示されているカートリッジの中で
今回のターゲットは…
5月16日
かねてよりやってみたかった企画。
それは京都でSATINをゲットするというものだった。
SATINが生まれた街でSATINをゲットする。
言うは易く行うは難し、の筈だが、そこはBBGオーディオがあるのだ。
そこにはSATINさまもゴロゴロしている。
で、京都でSATIN、はお洒落だがSATINも色々ある。特に初期は色々だ。
適当に羅列するだけでM7-45E。M7-8C/E。M8-45/E。M6-45/E。M6-8C/E。
…これはもう諳んじられたらアナタもSATIN教検定初級合格である。
M-11以降は型番もすっきりするのだが、まあ実に熱心に研鑽を重ねバリエーションを増やしていた
(増えてしまった?)時期があったということととらえたい。
そしてその6だの7だの8だのの違いを立証することは僕には無理だ。
(出来るかもしれないが時間が掛かりすぎる)
SATINマニアの方のお叱りを受けることを覚悟の上で簡単に言ってしまうと、
このシリーズとのちの物の違いのひとつはダンパーの一部にゴムを使っているということ。
後年ゴムの完全追放?みたいなところまで行ったSATINだが、黎明期のものはちょっと違うということだ。
ただし、それが必ずしも音に悪い訳ではない、ということは図らずもこの後立証されてしまうのだが…
そうそう、今回僕が求めたのはM7-8Cというモデルだ。
さて、しかしクラシカルな外観である。
いかにも'60年代という感じ。
齢50年以上のカートリッジであるから入手は慎重に。
今回はBBGオーディオさんみたいな老舗店舗からの購入だからその点安心。
とはいえ、BBGさんのSATIN達だって長い間売れてはいない筈(失礼!)なので100%安全とは言い切れない。
最初に針を降ろす時はドキドキした。
装置だがアームはEPA-100。案外重い(14,3gもあるとか!)のでサブウエイト必須。
プリはSY-99でメインがHMA-9500。そしてスピーカーがG7。
針圧だが公証0,8〜3,5gとこの時代の物らしい広範囲対応?
いきなり1gというのもあれだったので、困った時の1,5gにしておく。
(別の日は1,8gくらいがベストだった。やはりSATINらしさはある)
その音だが…
5月17日
その音だが…
これはかなり驚いた。
大変良い音だ。
一軍の音である。
分解能は大変高いのだがあくまでも音楽を忘れないところが絶妙。
もちろんワイドレンジである。
こんなものが自分がヨチヨチ歩きしていた時分に既に世の中にあったとはビックリとしか言いようがない。
なにしろ外観もセンスは良いけどいかにもクラシカルなのだ。それなのに…
これは”買い”、だがまともな個体を探すのは至難の業、と思えばBBGオーディオさんに
連絡して、同じ、あるいは似たようなSATINを探すしかない。
やはり京都でSATINを求めると良いことがあるものだ。
5月18日
M7-8C。
思ったよりは神経質ではない。
そもそも針圧0,8g〜3,5gというあたりに寛容さを感じる。
ただ、その頃のカートリッジはそんな表記の物が多かったが…
だが、そこはSATIN。並のカートリッジ達よりはクリティカルである。
汚れた盤なんか喰わせたらいきなり吐き出す。
波打った盤も、すぐに乗り物酔いみたいになる?
見るとわかるがカンチレバーはグンと寝た感じで、よく腹をすらないな、と言いたくなるくらい。
こうした子は大抵神経質だ。
それからアームも選ぶ傾向が強い。
当初EPA-100にサブウエイトを付けて使っていたが、それよりもWE-407/23で(ウエイトは一番重いヤツ)
鳴らした方が良い。ちょっとタイトな感じになるが安心感には代えられない。
SATINも自社のアームが出来るまではクラフトのオイルダンプを使っていたという噂もある。
その辺のアームで使えない、なんてことは無いけど、お相手は似つかわしい方をご用意するに越したことあHない。
そんなわけで油断ならない相手だがつぼに嵌った時の音はAクラスだ。
思ったより値はこなれているみたいだから、冒険心を持って手を出されるのも吉かと思う次第。
5月19日
1960年代の資料になると途端に少なくなるのがよっしーの部屋の
至らぬところだ。
かろうじて1969年のスイングジャーナル誌にM-11Eの広告を発見。
しかし、ちょっと驚いたのは、そのM-11Eの広告でM8-45Eについて触れていて、
それだけならともかくM-11Eの金額が14,000円なのに対し、M8-45Eは32,000円と
なんと倍額以上なのである。
これはどうしたことか?
企業努力で、新型M-11は半値で提供できるようになった
…とは思えない。
それだけ旧シリーズの方が金が掛かっていたのか?
今となっては謎でしかないが、自分の持っている旧シリーズの方が
その後の物たちより高価だというのは
まあ持っている身としては悪くない話だ。
さてと…