5月18日
MCカートリッジが日本で普及し始めたのはいつの頃だったか。
1977年ごろだったか?
先にアメリカでMCブームが起きて、それがあっという間に飛び火した形だったと
記憶する。
当時中学生、高校生くらいだった僕は、
どうして針だけの交換が出来ないような物が高い値段で売られるのか?
と、変な点に疑問を感じていたのだった。
ま、さておいてアンプの方でヘッドアンプの用意なんかが出来てしまうと
必然的にMC優位というかMC万歳みたいなことになるわけで
頂点はMC、ということでそこから7年くらいだったが
アナログは最後の頂点目指して走って行くのだった。
と、前置したところでMCが常にMMより優れているとは限らない
という当たり前のことを書いておく。
価格面でもMCよりも高いMMというのは存在した。
有名なところではテクニクスのEPC-100系だ。
初代が1976年に6万円で登場した時は驚いた。
シュアーのULTRA500なんてのもあったっけ。
これから紹介するカートリッジはそこまで高くないのだが
あるいはあの時代の、これも一つの記念碑みたいなものじゃないかと思っている。
5月19日
手前にDL-109D。そして奥にあるのがDL-202。
109Dはすでにご紹介済み。
202もほぼ同時期に入手したのだが針折れ品だったのだ。
この度交換針が手に入ったので202デビューである。
109と202は似通った部分もある。
4コイル12ポールのダブルプッシュプル発電は共通。
ただしインピーダンスは両者で違って、109は2,9kΩなのに対して
202は600Ωとローインピーダンス。
メリットとしてはアンプの入力負荷による特性変化を小さくできることがあげられる。
カンチレバーは109でも肉厚0,025ミリという薄さだったが202ではさらに小さく、
軽量化ではMMの限界に挑戦という感じ。
実際針先を見ても心配になるくらい小さいチップで、カンチレバーは細いだけでなく
短い。
結果的にDL-202では高域は60kHzまでの伸びが測定され、
下手なMC顔負けの特性となっている。
5月20日
このDL-202だが案外知られていない。
と言っている僕だって知らなかった。
しかし、これ、DENONの本格的MMカートリッジの最終章とも言われ、
あるいは同社最強のカートリッジかも?と一部では言われているのは確か。
登場は1979年。
MCのDL-303とほぼ同時にワンツーパンチみたいな感じで発売された。
202の方が少し早くて同年2月下旬発売。303は3月発売。
303は、DENONがあるいは初めて本気で脱DL-103を考えたのかもしれない新生MCカートリッジ。
振動系実効質量を0,18mgまで軽量化。ハイコンプライアンスカートリッジとした上で
空芯コイルと高磁力のサマリウムコバルト系マグネット採用。
カンチレバーが特殊アルミの二重構造でかつテーパー処理を施している。
針先は特殊楕円で0,1×0,05ミリの長方形断面。
出力は0,2mV。針圧1,2g。
以上がDL-303のスペックだが202も同様にハイコンプライアンス化が図られている。
針先チップがわずかに大きい0,1×0,1だがハイエンドの伸びという意味では303の70kHzに
迫って(すでに書いたように)60kHzとなっている。
余談だがこの時DENONからは同時に単体アームDA-401が4万5千円でリリースされていて、
カートリッジのハイコンプライアンス化に対応。
いかに世の流れがハイコンプライアンスに傾いていたか知れようというものだ。
この時DL-303が4万5千円。DL-202は3万円。
303の方が1,5倍高いが、あるいはマニアの目はそれでも303の方に向けられていたかもしれない。
3万円出してMMというのは逆に言うとかなりのマニアでないと選ばない?
このころテクニカからはすでにAT-32が出ているが、それだって2万5千円なのである。
ま、それはさておいて202の音はどうだ??
5月21日
音。だが、まず第一音を聴いて分解能の高さに驚かされる。
エコーの分離なんか印象的で、人工的な物であれ、
ナチュラルなエコーであれ見事に飛んで行って気持ちが良い。
おおー…としばらくは喜んでいるのだが
いささか腰高に聴こえる気もする。
だがしかし、この辺のことは焦ってはいけない。
というのもデッドストック未開封ということは
この交換針一つとっても40年くらい寝ていた可能性大。
ダンパー抜けてふにゃふにゃなんて事が無いだけで
立派なものだが、掘り起こされたツタンカーメンみたいな状態なのは
明らか。
取りあえず夜ごと色々な盤をかけるしかないのだ。
5月22日
オーディオという趣味は気の短い人には向かない。
かといって気の長い人にも向かないものだ、と言ったのは長岡先生だが
さすが言い当てている。
まあ焦らずに、そのうち良い音が出るさ、
と鷹揚すぎるのもダメだし、五分経ったら立ち上がって何かを換えているなんて
具合に気が短すぎるのも成果が出ないパターンだ。
なんでわかるかというと、よっしーはその両方の才能を併せ持っている?からだ(笑)
しかし40年寝かした針と、いつから針を失ったまま眠りについていたのかも
知れないボディの組み合わせでしょっぱなら満点を出せというのが
無理難題なのは誰だってわかる。
ここは暫く盤面の上を走り続けていただくしかない。
で、この期間が一番音が変わるターンで、音はどんどんこなれてくる。
重心もどんどん下がってきたので一安心。
ま、シェル一体型ということで弄りまわす要素が少ないのも
この場合良い点だ。
そう。シェル一体型なのも202の特色の一つだ。
シェル一体型のカートリッジといえば拙宅にもU-1E。AT-25。
VC-20といくつかあるが、いずれも一家言持ったしっかりした
カートリッジだ。
ほとんどのカートリッジは例の4ピンを備えたユニバーサル型の
トーンアームの先っぽに取り付けられて使われるのだし、
シェル無しで使えるわけじゃないと考えたら
シェル一体型は理にかなっている。
5月23日
シェル一体型。
なによりシェルという音質面での不確定要素を排することで
メーカーの狙った音を確保しやすい。
僕としては好きな形だが、やはり主流にはならなかったのだな、これは。
202の場合はオーバーハング調整も出来ない作りだ。
要するにシリンダーを動かしてネジで固定して、みたいな作りになっていない。
そんなこともあって、見た目が一層のっぺりして見えるといえばその通りなのだが
音質という面では余計なものはない方が良いに決まっている。
そしてもしも調整機構を盛り込んだら、202は3万円では納まらなかっただろう。
そして重さも増えてしまっていただろう。
とにかく当時定価3万円也のMMカートリッジは安くなかったのである。
しかし、そうした物を買う人が居たのも事実で、
だからこそ云十年後の今日、よっしーもそれを手にすることができて、
こうしてああでもない、こうでもないと語っていられるのである。
それにしたって1979年の製品。
昭和54年。
バイクで言ったらZ400FX登場前夜のタイミングなのだ。
花も恥じらう高校三年生に、なるかならないかの頃。
そんな頃に生まれたカートリッジが、大学時代をすり抜け、
仮にも社会人としてのおよそ35年のワンセットを終えるまでの間
この国のどこかで生き延びて、今こうして再び音を出しているのである。
それだけでもえらいこっちゃではないか。
5月24日
DL-202だけ聴いているのも脳が無いので
ビクターU-1Eを引っ張り出して来てSL-100Wに取り付けてみた。
アームはWE-308Nだ。イコライザーはPRA-2000のMM入力ダイレクトとなる。
DL-202より3年くらい若くて、価格は三分の二くらいになるが
トータルではこれも良い音だ。
これとDL-202を適宜切り替えて聴いてみた。
202の方はMU-31D/TSにEPA-100でイコライザーはHX-10000となる。
厳密に両者を聴き比べしようなんて訳じゃないから、それでよいのだ。
三日か四日掛かったがDL-202も完全に覚醒したようである。
しっかり鳴る。良かった。
U-1EにしてもDL-202にしても一部で絶賛されたが、ベストセラーにはならず、
共にシェル一体型のきっちりした名器というところは共通か。
随分時間がたってから変なところで遭遇したとカートリッジ同士が夜な夜な語り合っているとか
いないとか…
5月25日
ところで数か月前から本調子で無かったPRA-2000。
重い腰を上げてメンテをしたつもりが、なんだかノイズが…?
こりゃあかん、ということで二号機から基板を移植。
それで納まったということは、問題はこの基板にあると、
わかってしまうあたり同じものを二つ持っている甲斐があるというものだ?
まあプリはちゃんとしておいてもらわないと困る。
スピーカーがおかしくてもメインアンプが壊れることはない。
メインアンプがおかしくてもプリアンプが壊れることはない。
だがプリがいかれると下流もやられてしまう。
本腰を入れて二台とも絶好調にするしかない。。
5月26日
いつまでもこんなんで良いのか?とも思うが
相変わらずPRA-2000を弄り、
そして相方はHMA-9500だったりする。
そして9500の上には静音ファンが乗っかるシーズンとなった。
冷やしすぎももちろん良くないのだろうが、
さじ加減は難しい。