9月12日
かつてこの国にオーディオブームなるものがあった。
それがいつの頃のことなのか、実は明確にし辛い。
終戦後1950年代には、もう元気よく音響機器にお熱だった人たちもいたらしい。
1960年代。1970年代はもちろん一層裾野も広がって…
いや、結局終戦後しばらくしてからはずっとブームだったような気さえする。
あるいはCD登場前夜に、数字的にみると崩壊が始まっていたのか。
ただ、CDという新しいフォーマットの登場は業界を大いに元気づけたのは確か。
折も折、というかこの辺からバブル景気が始まる。
それは1987年〜1988年頃に明らかな加速を見せて、1989年暮れのピークへと向かう。
1990年代に入り、それは見事に弾けて崩れていくのだが、それでも今思うと1990年代というのは
1980年末までの勢いの残滓くらいはあったようだ。
おおよそ50年間に渡る長き夢。
その中でどこがピークだったのか明言するのは難しい。
1970年代後半に豊富な収穫があった事も確かだ。
しかしここではやはりバブル経済の威を借りた?1980年代後半を
一つのピーク。あるいはピークアウトの時だった、と見ておこうか。
よく言われる598スピーカーブームは1988年がピーク。
そしてその前の1987年に798アンプのブームがあったのは有名。
果ての無い物量投入合戦。本来10万円で売りたいものを5万円で売るような競争が
繰り広げられた。
いや、日本は元気だった、としか言いようがない。
30年後の今日の活気の無さと来たら…
さておいて、1987年頃の798アンプってどんなのがあった?
全部は挙げられないからそのつもりで…
マランツPM-74D
オンキヨーA-817XX
サンスイAU-α607
ソニーTA-F333ESX
ビクターAX-990
ヤマハAX-900
…いやもう呆れてしまう。凄いのばっかり。
しかも一部だったりする。
(続く)
9月13日
せっかくだから補足。
秋冬には
ケンウッドKA-990EX
オンキョーはA-817EXにチェンジ
パイオニアがA-717を投入とか色々あった。
1986年くらいから前兆はあり
1987年でぴったり終わるなんてことは無いので混然とする。
じっくりみていると1986年寄りの方はVを混ぜる傾向にあり
1988年寄りになるとDAC内蔵の香りがし始めるのがわかる。
さてしかし、798が売れ筋だったとしても全てではない。
ソニーでいうなら333の上には555がいるわけで
TA-F555ESXUは128,000円
デンオンPMA-1010Dは178,000円で当たり前だが10万円未満には
差を付ける。
そして夢の?オーバー20万円コース。
パイオニアA-90Dが22万円
サンスイAU-α907iMOS LIMITEDが26万円
マランツPM-94 LIMITEDも26万円とスーパープリメインも
数は限られるが登場している。
で、引っ張ったがここで…
9月14日
で、引っ張ったがここで907のお話し。
なんと、よっしーの部屋にサンスイ907が来るのは初めてなのだ。
1978年AU-D907
1979年AU-D907Limited
1980年AU-D907F
1981年AU-D907F Extra
1983年AU-D907G Extra
1984年AU-D907X
1985年AU-D907X Decade
1986年AU-α907
1987年AU-α907i
1987年AU-α907iMOS LIMITED
1989年AU-α907L Extra
1992年AU-α907KX
1993年AU-α907XR
1994年AU-α907 Limited
1995年AU-α907MR
1996年AU-07 Anniversary
1997年AU-α907NRA
…書き落としは無いかな?
上記を暗記していてすらすら言えたら立派なサンスイマニアという事になるが
居るのか?
それくらい多岐に渡るし派生モデルもあって実に難解。
まあ、その辺はさて置いて、907シリーズが実質的なサンスイプリメインのトップという
事で良いだろう。
(1111、みたいなのは別にして)
なかなか買えないよね、っていうのは正直なところ。
高級プリメインの代名詞みたいなものだった。
ま、907と限らずサンスイはプリメインアンプの開発にも本当に熱心だった会社で
しかもギミックというより正攻法で攻める、みたいな感じで
バランスアンプとして方針を固めたのが1984年のこと。
αがついて1986年以降デザイン変更。
KX以降のモデルはもう本当に完成の域にあって
バブル崩壊後’90年代のオーディオ界を支えた感がある。
さて、今回登場はAU-α907iMOS LIMITED。
1987年10月下旬発売。
466W×160H×441Dとジャンボサイズ。
特に背が高い印象がある。
重量なんと30s。
HMA-9500より重い。驚くのを通り越して呆れる。
9月15日
仕上げはよっしーも大好きなブラックフェイス。高級感漂いまくりである。
ま、その辺は1986年発売の907iとそんなに変わったようには見えないのだが
何が違うと言って、やっぱりMOSの採用である。
パワーMOS FET自体はその10年も前に実用化されているが、MOS一色とはならなかった。
優れた素子とされるMOS FETだが製品としてアンプ作りという観点からみると
特に電源強化が必要であり、しかもそれをしたからと言ってパワーが取れることもないという
やりにくい相手だということ。
907iMOSのパワーは8Ω負荷で80W+80W。
907iは同じ条件で160W+160W。
なんと半分しかパワーが取れていない。
実際にはアンプのパワーなんて80Wもあったら充分なことはマニアなら知っているが
当時はすそ野も広く、一般的な目から見たら、高くてパワーの無いおかしなアンプ、という
事になってしまいかねない。
商売上大変やりにくい事ではある。
しかしサンスイはリリースして来た。
折しも創業40周年というのもあったのだろう。
景気の良さも背中を押したか?
今となると真相はわからないが、どこかでこのMOSという素子をものにしたいという
想いもあったのか。あるいはそれが一番強かったか?
9月17日
DCP-5500の日記の時にも勝手にジャンプを設定させて頂いた
odaさんのページがあるいは一番詳しいかもしれないが
この頃各社各様のMOSアンプをリリースしていた。
ただ、やはりMOSのひとつの傾向として、美しい音は得られるものの
ともするとそこまでで止まってしまい、爆発するエネルギー。強烈な切れ込みという物は
無いままになってしまうパターンが多かったようだ。
もちろん例外はあって、その一つがサンスイでありAU-X111MOS VINTAGEを皮切りに
このAU-α907iMOS LIMITED。その後単体パワーアンプB-2102MOS 同2103MOSへと
発展を遂げていくのである。
何でもそうだが一筋縄では行かないもので、単純にデッカイ電源トランスと
大容量のブロックコンデンサーを林立させれば良いMOSアンプが出来るという物ではないようだ。
結局はセンスという事になるのだが、同時に、”こうしてやろう”という意地が無いと
思い通りにはならないのではないか。
この頃のMOSは東芝のモールドタイプのMOS。 2SK405/2SJ115
であり、その点は共通。
ただ、出る音は各社各様だったということだ。
さて、この辺でいい加減に907iMOSの音だが…
9月18日
907iMOS LIMITEDの音だが、これは一口で言って高級な音である。
立派なオーディオショップの、高額商品フロアで鳴っている音。
…とか何とか言っても、よっしー自身はそのようなお店にはとんと縁がなく、
何かの間違いで足を運んでしまうと、高い敷居にけっつまづいて、
その状態で中の音を自動ドアの辺りで聴いているのが関の山なのは告白しておく。
冗談はさて置いて非の打ち所がないとはこのことだ?
ここがこう、とか、ここがどうとか言う気にならない。
すみません、黙って聴かせて頂きます、という感じ。
あるいはオーディオの終着駅がこれというのは有りだな、とさえ思う。
9月19日
まあ、個々人の趣味の問題だろうが
このアンプのカタログにこのお兄さんがどうして必要だったのか?
よっしーにはさっぱりわからない。
余計なキャプションは要らない。
そこにはただアンプの姿があれば良い。
…そうはいかないのだろうな…
パラレルプッシュプルで働くMOSが写されている。
α-Xバランスサーキットについても
もちろん解説。
黙って俺の音を聴け!
…では済まないわけね…
オーディオも色々大変である。
9月20日
しかし凄い時代だったんだな、と思う。
重さ31kgのアンプがちゃんと売れていたんだもの。
このモスリミなんかも1,000台限定と言っても
すぐに捌けちゃったんじゃないかな?
26万円。
痺れる金額だけど買う人は買った。
アンプがこれって事は、CDも20〜40万だろうし、
スピーカーまで含めると60〜100万はオーディオに注いだのだろうなー。
これって、子供たち世代に話しても絶対に信じてもらえないお話し。
でも、その後も'90年代とかは
辛うじて?そうした趣味を持つ人達がいたのだよ。
再び907の系譜を追いかけてみると、
1993年AU-α907XR 278,000円
(1994年AU-α907LIMITED 410,000円)
1995年AU-α907MR 295,000円
(1996年AU-07アニバーサリー 450,000円)
1998年AU-α907NRA 300,000円
いずれも、「下手なセパレートは要らない」とまで
言わせた高性能で知られる。
ただ、価格はその割に上がっていないのにも気づく。
1987年のAU-α907iMOS LIMITEDが26万円だったのに
ほぼ10年後のNRAが30万円でしかない。
もちろん'90年代の不景気が背景にあったから
少しの値上げもビクビクものだったのかもしれない。
ただ、どうも良心的すぎるというか商売が下手というか、
値付けに失敗している気がする。
その辺がその後の流れを決めたのか。
実に残念なことではある。
9月21日
さて、少々引き延ばしを図っていたが
ここからは改めてAU-α907iMOS LIMITEDの音のお話し。
このアンプ、もちろんプリメインアンプとして完成しているのだが
一方でボリューム付きパワーアンプにプリ部もついた…という風に見えなくもない構成。
背面を見ると時代を反映してパワーアンプダイレクト端子がばっちり付いている。
CDプレーヤーをここに繋げばフラットアンプを飛び越して
より一層鮮度の高い音が聴けますよ、という訳だ。
もちろんここに単体フォノイコを繋いでも良いわけで、
大変使い勝手に優れ、また発展性もあるという親切な作り。
この部分から後を切り取って後年発売されたのが
パワーアンプB-2102同2103シリーズ…
か、どうかはしらない。
そして特筆したいのがバランスインがあるということ。
いや、まあ珍しくないと言われたらそれまでだが
サンスイのアンプは907Xの時代から本物の?バランスアンプ構成である。
思いっ切り省略して解説してしまうと
通常のステレオアンプが、右チャンネル用、左チャンネル用と
二つで構成されるところ、バランスアンプでは
+側アンプ。-側アンプとあって、更にこれが左右チャンネルで別にあるから
都合四つのアンプが内蔵されている感じになる。
憧れのバランスアンプ。
ピュアバランス受け。
これを見たら試したい事は一つである。
9月22日
そう、バランス接続。
夢のバランス接続。
貧乏人には縁が薄いバランス接続。
ブルジョワにこそ似合うバランス接続。
…なのだが、即ち結果も良いかどうかは、実は話が別である。
そもそもバランス接続というのはケーブルを長々と
多数引き回す現場では当たり前の存在だが
家庭内に置いてはメリットが少ない。
なによりネックになるのが、そもそもの逆相信号を
どうやって作って居るか?だ。
割とあるのが逆相信号を作るための基板を設けているパターン。
手持ちの物でいうとTASCAMのCD-401がそうだった。
即ちそれがいけないとは言わないが
家庭内のオーディオという観点では
いかがなものか?となってしまう。
ここで登場するのが毎度おなじみ?CD-10。
あるいは大変特異なプレーヤーで
正相のDACと逆相のDACと両方を持っている。
これをバランス接続すると、大変珍しいピュアバランス接続が可能になるのだ。
さて、どうなる?
この時のバランス接続の音だが、
変な言い方だがアンバランス接続に比して劣ることはなかった。
…なんだけなしているのか?と思わないで欲しい。
実は当初(バランスの方がアンバランスよりも)劣っている感じがちょっとだけした。
というか、907モスリミの場合、普通にCD端子に繋いだ
CDの音が十二分に良いのである。
これをバランス接続にしたら、更に大きく躍進!
…なんて上手い話が転がっているわけがない?
しかもケーブルだってアンバランスの方は一応名のある品だが
バランスの方はホールでの伝送向きに作られたもの。
もう一つ言うとちょっと余分目に鳴らしこまないと
音が落ち着きにくい?
4DAC 4アンプが馴染むには日々時間が必要?
この辺の事は今後の課題としたい。
念のためだが僕はこのアンプのバランス・インに
大変な期待を持っているので
これで終わらせる気は無い。
次はアナログプレーヤーを繋いでみたところ…
9月24日
想像通りアナログも素晴らしい音で鳴る。
ハイエンドの繊細微妙な感じはアナログ+MOSアンプならでは、
という気さえする。
更にプリ経由であるとかフォノイコアンプ経由とすれば
上を行くのかもしれないが
なんだかそんな事をする気を無くすくらいの鳴り方だ。
AU-α907iMOS LIMITEDと接していて一貫して思うのは
プリメインで鳴らしているという感じが希薄なこと。
セパレートだとエライとかそんな事では無く
どこか鳴り方が違うよね、というのが
正直な感想だったのだが
907モスリミの場合そんな感じが本当に無い。
感覚としては26万円出して高級ボリューム付きパワーアンプを買ったら
立派なフォノイコとコントロール系も付いていてビックリ、というところか。
1111や2103も良さそうだが果たして907モスリミを大きくそんなに引き離してくれるのか?
想像だが大差は付けられないのではと思ってしまう。
(知らんけど)