7月5日
*以下はもうすでに数か月前の出来事である。
某月某日、僕は某県某所にある某オフへとえっちらおっちら出かけて行った。
きっかけはとあるSNSでの投稿だった。
どなたかがそのお店でとあるカートリッジを買われたということで
(本当はいけないのだろうが)陳列棚の写真をアップされていたのだった。
ほうほう…と何気なく眺めるその写真の片隅にある物が写って…
写って…
写って…
これは出向かない訳にはいかなくなった。
まずお店を特定。これはわりとすんなりいった。
次に電話。確かにそのお店のジャンクコーナーにそれはある。
行かないと買えないのか…と呟いてみたが笑ってかわされた。
まあ良い、行こうじゃないか。
ただしこちとらもそうそう暇ではない(本当はヒマだが)。
何しろちょいとばかり距離があるしね。
…とかなんとか言いながら数日後には電車の中の人になったのだった。
店員さんは大変親切で、いよいよ「これから行く」と言ったら在庫を確かめて
お取り置きをしてくれた。これで一安心。
しかし駅に降り立てば、そこからまた遠い。
えっちらおっちら暮れなずむ街を歩いて行ったと思いなさい。
うーん、やっと着きました…
物の確認をして、折角だからと店内を見回り、ついつい余計な物にも手を出し…
何度も電話で応対頂いた店員さんにお礼を言い、
お支払いも終わり店を後にする。
立ち去る時いつも思うのは、「またこのお店に来る事ってあるのかな?」である。
西の方のドフには一方的に顔なじみになったドフもあるが、
東京都を突っ切った某県にあるこのドフへ、いつかまた再び来られることが
あるとイイナ。
では、何を買った?
7月6日
これを買った。
カートリッジ。
ビクターのU-1Eだ。
ああ、とわかる人は一発でわかる。
シェル一体型の名器。
1977年当時19,500円。
前年登場したテクニクスEPC-100Cは色々な意味で周囲に衝撃を与えた。
6万円という価格がまず一つだが0,1mmダイヤチップ採用。
カンチレバーはチタンパイプで表面にチタニウムボライド層を形成させた物と
オーソドックスに攻めながらも凝りに凝った内容が凄かった。
もう一つがシェル一体型という構造で強靭なボディを手に入れていた。
これも斬新だった。
触発されてシェル一体型が幾つか出たがU-1Eもその中のひとつで尚且つ最低価格というか
抜群にリーズナブルに抑えた形で登場している。
重量は22gと100Cの19gより3g重い。
別に重いからエライわけでもなんでもないし、あるいはもう少し軽くしたかったが
諸事情でそれは叶わなかったのかもしれない。
ただ、見るからにごつく且つ直線的で男性的なスタイルは大変好ましいものだ。
100Cが流麗でクイーンの趣きだとしたらU-1Eは間違いなく兵士であり、
いざとなったらクイーンのために命も捧げる従者的な格好良さを持っている。
100CやU-1Eが華々しくデビューした頃、僕は全く華々しさの無い高校生くらいで
6万円のカートリッジなんて夢のまた夢で想定外だった。
対して2万円を切るU-1Eは、まだ現実的な存在だった。
ただ、結局それだって手にすることなく時は流れて行った。
その時代には良くある話しだった。
莫大な時が流れ、ネットオークションの時代ともなればU-1Eも
たまにではあったが見る事は出来た。
しかし、そういう風には買わないのがよっしー的である。我ながら変わっている。
ただ、今回みたいな登場の仕方をされてしまうと、これは手に入れない訳には行かない。
7月7日
ご対面すると想像以上に格好良い。ごつい。
ただ、最初から分かっていたが針が無い。カンチレバーが折れているのだ。
しかしよっしー少しも慌てず?あっさりと同じビクターのZ-1Eの針を出してくる。
しかもこの針、いわゆるノブがもげた物でノブの形状の足かせが無い分挿し放題なのだ。
知る人は知るので説明を省いたが、U-1Eも中身はZ1なのだ。
Z1に強靭なシェルをかぶせた物。超短絡的に言うとそれがU-1Eだ。
だからZ1系の針が使えるのは当たり前。
ただ、U-1Eの売りのひとつはネジ止め出来るスタイラスノブなので、その意味では
U-1E本来の良さは活かしきれてないやり方とも言える。
ま、その辺は後のお楽しみで良いのだ。まず音が出る事が大事。
で、音だがあっさり出た。作戦成功である。
その音だが予想通り。切れが良いのはもちろんなのだが押しが強くて実に男性的。
やったぜ!と思わずガッツポーズを取りたくなるような音だ。
7月8日
ところでこのU-1E。長岡先生の評価など大変高かったが商業的にはどうだったか?
成功とは言えなかったという説があるが真偽はわからない。
ただ、ベストセラーになったという話は聞いていない。
以下は想像だがネックの一つは重さ。
シェル一体で重量22g。
これはビミョーに重すぎる。
普通のアーム。普通のプレーヤーで使う時、シェル込のカートリッジ重量というのは
20gを割るか超えるかがひとつの境界線となる。
軽くするなら20gを切りたい。
ところがU-1Eは前述の通り22gある。
同時期のシェル一体型を眺めてみると…
SONY XL-55PRO 22g
テクニカ AT-34 15g
ジュエルトーン JT-RU 19g
グランツ G-7 19g
テクニクス EPC-100C 19g
…ということで55PROを除くと全部見事に20gを割っている。
さすがよくおわかりなので?ある。
55PROなんか実測24gくらいあったみたいで、開き直っている感があるが
実はPROの型番が示す通り、これはXL-55を局仕様みたいな形にしたもの。
だからちょいと長めの武骨なアームなんかを想定していたりする。
ところがU-1Eはれっきとした民生器というか2万円を割る価格設定なのだから
その点はビギナー向け?
どうも重さとその辺の所の折り合いが付かない感じだ。
その為か、ビクターもすかさずU-2Eというのを後追いで出して来た。
重量17,5g。
さすが、20gは切って来た。
お値段17,500円だからU-1Eと比べてそんなに安くない。
…の割には高級感を欠く(失礼!)デザイン等のせいか、
すごく売れたとは、残念ながら聞かない。
いっそのことU-1EMK2を、39,800円くらいで出せば良かった。
その方が売れただろう。消費者心理を理解しないといけない。
そのせいかどうか、U-1EもU-2Eも永らくカタログに載っていた。
MC-L10と同じカタログに載っていたのだから'82年位まで残っていた計算か。
在庫が掃けなかったのだとしたら可哀想だ。
7月9日
ところで、ちょっと遠方に脚を運んだとなると、ついうっかり
目的の物以外にも目はいくわけで…
ま、そうそう来られるわけでは無いからとかなんとか
自分で自分に言い訳が始まる訳さ。
で…
いや、まあプライスカードには
「針が取れそうです」と書かれてはいた。
さて、それはどれくらいの状態なのかと目をこらす訳だが…
なるほど、これはかなりスゴイ事になっている…
7月10日
DL-107。
これについて説明するのはもう憚られる。
局用カートリッジとしてはDL-103が有名だが107も同列と見て良い。
ある意味103コンパチ。それが107か。
今になって改めて凄いと思うのが針の固定方式だ。
MMだから針は交換可能。
…なのだが樹脂のスリーブなんてものは使っていない。
アルミブロックに針が刺さっていて、それをボディにネジ止めするのだ(!)
EPC-100Cに先立つこと8年。交換針のネジ止めが実現されていたのだ。
後になって気づいたのだがこの日はU-1EにDL-107と針ネジ留めシリーズを
求めて来たことになる。
それは良いがどちらもジャンク。
107の針の曲がり方は芸術的というか、何をどうしたらこうなる?
しかし曲がっていようが何だろうが針先チップが生きているのは大きい。
取りあえずやれることと言えばピンセットで修正することだけ。
あんまり深追いしていると金属疲労で折れてしまうから気合を入れる。
当然だが元通りになんかならない。妥協の産物となる。
ま、それでもなんとか一応”真っすぐ”っぽく出来たところで恐る恐る試聴。
到底まともとは言えないカンチレバーの状態だから本来の能力の65%くらいしか出ていないと思う。
だがしかし、それにしては良い音だ。
カッチリしていて実に爽やか。
それでいて若造の音ではないのだ。
厚みもゆとりもある。しかし中年太りではない。
将来を嘱望されているのは明白だが、今は第一線でバリバリ活躍中。
そんな感じか。
ま、いつか曲がっていない針を手に入れて、本当のことはそれから始まる。
7月11日
話しは前後するがU-1Eみたいに重い(一応オーバー20gとしようか)を
使う時、アームによっては本当に困った事になるケースもある。
例えばEPA-100なんかで使おうとするとバランスウエイトを最後端まで持って行ってもゼロバランスは
取れない。
まあそこからちょっと前進させてデジタル針圧計で測れば、1,5gを得ることは出来て
使うことは出来る。
ただ、ウエイトが目いっぱい後ろというのは問題も出て来る。
そこでサブウエイト…と行くと良いのだが、大抵の場合そんな物は無い。
一番シンプルな解決法はウエイのお尻にコインなどを貼り付けてサブウエイトの代用とすること。
実はこのやり方をEPA-100では一時期続けていた。
だがトラブルもある。
早い話が極稀にだがウエイトが脱落してしまうことがある。
なんだかんだ、需要が多いからだろう。ヤフオクなんかでも製作品のサブウエイトの出品を見る。
なかなか良さそうなので、いよいよ買おうか?と思っていた頃、工具箱の片隅に面白い物を発見。
なんだ?これは?
7月12日
なんだ?これは?
これは確か配管とかを壁に固定したりするのに使うパーツだ。
ベルトドライブプレーヤーのDCモーターの固定方法を模索していた時に買ったと記憶する。
見ている内に、この内径がEPA-100のウエイトの外径に近いような気がして来た。
で、物は試しと当てはめてみるとバッチリだ(!)
色が良い。実にビビッドである。
オーディオの世界はやたらと地味な色使いの物が多いから余計目立つ。
着脱も容易。更に写真のようなやり方でウエイトを増加する事も可能?
なによりCPサイコーである。永年の悩みがこんな事で解決するなんて…
7月13日
これ、なあーんだ??
テクニカVMN50SH。
交換針である。言うまでも無し。
これは最新のVM700/600/500シリーズに使えるスタイラスだが手持ちの540に使うつもりで
手に入れたわけではない。
もう何年前だっけ?北陸ドフツアーの際にゲットしたAT-100針無し、のために、と思いゲット。
もちろんこれまでも100には他のテクニカ針を挿して楽しんで来たからそれで良いのだが、
ボディの数と針の数が合わないと気持ちがすっきりしない?
VMN50SHなんてのはそもそも結構高価なのだがたまたま格安で出ていたのでさらってしまった。
実はこれももう数か月前の出来事なのだ。
ところで末尾にSHと付くということは、これシバタ針だ。
で、シバタ針って何よ?
ネーミングからしてシバタさんが開発したに違いないと思うとその通りで
柴田憲男さんの手によった。
大きい曲率と小さな針先曲率で音溝に接触させて諸特性を改善するというラインコンタクトの思想を
最初に実現したのがシバタ針とされる。
その開発は、同時期の4チャンネルレコード(の中のCD4方式)と並行して行われたというか
30KHzをキャリアとするFM方式の差分信号を載せる形だったので超高域(50KHzくらい)まで再生可能にする
必要があったのだ。
副産物としてトレース能力の向上。針先の長寿命化などもあり、これは日本オーディオ史に
残る偉業と言っても間違いない。
ビクター4MD-1Xは60KHzまでの広帯域再生を謳い歴史的にも貴重な一本となった。
もちろん各社からシバタ針あるいはラインコンタクト針が続々登場。今日へと繋がって来る。
さて、VMN50SHは今日も今日。大変新しいシバタ針だ。
これを得てAT-100の音はどうなる?
7月14日
音だが、基本アダルトサウンドという感じ。
もっと強烈なアピールがあるかと思ったら、それは違った。
これが今のテクニカの音作りなのかもしれないが、さて、ここからが肝心。
この先をよく読んで欲しい。
ひとつ目は、想像以上にゴミを拾うということ。
シバタ針こそ、最も音溝のゴミをかき出すという話を聞いたことがあるが
その通り?
レコードクリーニングの問題と思うかもしれないが、針先の違いによって
同じレコードでも当たる位置その他が違うためゴミの引っかかり方も変わるのだ。
それをわかっていないと、マイルドな音なのは針先に堆積した汚れのせい、なんて事もあるから
ご用心。
次は注意書きとは違うのだが、珍しく現行の針を手に入れた物だから浮かれて
VM-750SHのインプレなんか読み漁ったりしたものと思って欲しい。
思い入れの強そうなものから、読めば読むほど何を言っているのかわからない?ものまで
種種雑多。
そして僕の思う所とずれている物もいっぱいある。
ずれていて大いに結構。
大切なのは、感想なんてのはそういうものだ、ということ。
オーディオのインプレなんて個々人の思うところで相当違う。
あてにするなと言ってもあてにするだろうが、しょせんその人の感想はその人の感想なのだ。
万人がそれぞれのポエムの世界で暮らしている。
それがオーディオなのかもしれない。
*ま、ボディがAT-100なんだからそもそも音が違うわな…
7月15日
その後AT-100のボディからAT-150Eaのボディに本体の方を取り換えてVMN50SHを聴くが
やっぱり針の支配力は大したものだと思った。
VM540を聴いた時も思ったのだが50SHもまた音溝とガチンコ対決するタイプでは無いみたいだ。
僕は540というのは猫脚の名手と思っているのだが、50SHも相通じるところがある。
ということなのだが、現行のお品物を取り上げているので
昨日に引き続き但し書きをひとつ↓
急に気温が上がって来たこのタイミング。オーディオの音も場合によって安定しない。
特にアナログレコード再生は影響を受けやすいのは言うまでもない。
同じ組み合わせであっても夏と冬で印象がガラッと変わるなんてことがあっても不思議ではない。
…ってことをご理解ください。
しかしこの針差し替えの楽しさはMM(VM)ならではの物。
余計なお金が掛かるとも言えるがそれは仕方ない。
7月19日
暑い!
人間も危険だがオーディオ機器にもよろしくない季節の到来。
この写真では分かりにくいが、pippinさんに紹介頂いた電動ファンを
二つ上に置いた。
それだけで断然有利。
そしてこれは静音ファンで軸受の出来が違う。
そうでなければ今度はファンの音が気になって仕方なくなる。
欲を言えばあと3〜4つ買い込みたい。
可能な限りアンプ類は冷やしたいのだ。