6月6日
かつて「電波科学」という雑誌があった。
あった…と過去形で書かなければならないのが悲しいが
考えてみれば僕が一方的に取り上げている雑誌類はほとんどが休刊、廃刊になった物達だ。
オーディオ華やかりし頃は関係しそうな雑誌に片っ端からオーディオを絡めた記事が書かれていた。
大昔にギター雑誌のオーディオコーナーみたいなのを紹介したがあれもその一つ。
電波科学でオーディオが扱われるのは、それから比べたら当たり前だ。
で、ちょっと話しはずれるが、やっぱり本音、本当の事を書きやすいのは
本流にあるオーディオ誌よりも、ちょっとずれた雑誌たちの方。
これは当然といえば当然。
長岡先生は電波科学誌にもコーナーを持っていたが、ここで書かれていたことは
他誌で書かれていた事とはちょっと違う。
なにが違うというとひとつには視点が違うのである。
やたらと試作機の話しが出て来て興味深い。
当時オーディオ評論家のところへはメーカーがじゃんじゃん試作機を持ち込んだ。
もちろん製品化直前とか、製品にちゃんとなった物が多いのでが、
明らかに試作だけで終わった物なんかも出て来るので、ひねくれ者の当方としては
そっちは更に面白い。
そしてやっぱり書きたい事が書き易かったとみる。
電波科学誌の長岡鉄男オーディオジャーナル。
1979年頃の記事に、「アンプはよくなったか?」がある。
この時代はアンプのスペック競争花盛り。
もちろんそんなのはオーディオブームの間はずっと花盛りだったのだが
1975年前後のそれが、例えばパワー競争(1Wあたり幾ら、みたいな)だったのが
70年代も終わりに近づくと歪率の競い合いみたいに、力自慢の背比べというより
醒めた目つきの同級生、あるいは同僚同士の足の引っ張り合いみたいになりつつあったわけだ。
長岡御大(だけじゃなかったろうが)、この辺に大いに疑問を感じてこの記事では
1975年発売の歪率0,1%で当時84,500円で重量15,7kgのインテクグレートアンプを取り上げている。
機種名は書かれていないが、これがJA-S71の事であるのはマニアなら一発でわかる。
で、このアンプに少々手を入れて、結果…という記事なのだが
正直言って手を入れて…というのは長岡先生の思いやりというか優しさだ。
そんな事をしなくても華の'75〜76組みのJA-S71が第二次オイルショック組みに負けるわけがない。
ただ、それをやってしまってはさすがに旨く無い。
だから、「手を入れた結果」という事にしてあるのだ。
(続く)
6月7日
と、ここで話は変わり。よっしーも似たことをやってみたくなった。
急に思ったわけでは無い。端緒は40年位前にあったし、6年位前にJA-S71を出した時にもあった。
悲願何十年である。この男、ちょっとしたことをやるにも大変な決断が要るのだ。
その前に、詳細はかなり割愛するが僕のJA-S71も時々不調であった。
考えてみれば19年前に貰って来た時から音が出ない、なんて事があったし
それからも何となく動作不良を感じる事があったので今回修理をした。
その流れがあったから、この際手を入れてみようかと思った次第で、
特に不具合も無いアンプに手術を施す趣味は僕に無い。
さて、再び三度四度同じことを言うがこのアンプは中を見ただけで良い音がする予感を持てる。
強力な電源というのはもちろんだが、基板を見た時など流れが美しいのがわかる。
綺麗に信号を、電気を流すとでも言うのだろうか。
もちろんプリメインアンプの構成構造なんて大なり小なり似るもんだ。
それでも百台あれば百通り音が違う訳で、信号の流れが綺麗なんて当たり前、とは思って欲しくない。
…なのだが、このアンプにも一つ、これは…と顔をしかめたくなるような箇所が一つある。
それはプリアウト、メインインの結線だ。
基板上では両端子の距離8mm程度なのだが、リアの端子やスイッチ(プリメイン、セパレート切り替えスイッチ)
まで往復させるだけで物凄い遠回りとなっている。
しかも、その配線が実に安っぽい。
このアンプはプリアウトが二つ。メインインが一つ付くという豪華な?構成で
サブウーファーなども繋いで使い易いという親切設計で嫌いじゃないのだが
そもそもプリメインの良い所はプリとメインの間をケーブルで結ばず直結できる所にあるのだから
やっぱり本末転倒競技会というものだろう。
故にちょん切って基板裏で直結。ああ、すっきりした。
で、音は?というのを一箇所づつ。何かやる度に検証…とも思ったが正気の沙汰ではない。
ひとつ言えるのはこのプリ、メインの間の配線引き回し部分は
クレバーな設計のJA-S71にあって唯一見過ごせない箇所なのだ。
多分どこかの指令で付けざるを得なかったプリメイン⇔セパレート切り替えスイッチだろうが
音質優先なら無い方が良い。
次に経路をショートカットできそうなのがリレー→フロントパネルのスピーカー切り替えスイッチ
→リアパネルのスピーカー端子という部分で、長岡先生はフロントの切り替えスイッチを飛ばして
リレーのアウトから真っすぐスピーカー端子に行くようにされていた。
しかも配線に3,6mm平方の線を使ったとなっている。
もちろんこれも有効な方法だ。そもそもスピーカー切り替えスイッチなんか付けるからこうなる。
ただ、特に当時はこうした機能が好まれたのも確か。
悩んだがこれは後回しにする。
次に長岡先生がやられていたのがパワー段に入ってすぐの所の0,47μFのフィルムコンデンサーの交換。
純性もマイラーの、時代からしたら立派な物が付いているがこれをΛに交換(数値は0,68になる)
されていた。
目で追っても重要なパーツなのは理解出来る。
ただ、僕が高級コンデンサーを持っているなんて事は無い。
しかしFOSTEXのUΣならあると家探し。0,47を発見。
リード線が太すぎて苦労したが一応装着。
目下ここまでの状態でG7を繋いでいるが好調と言って良い。
そもそもが骨格的なところではセパレート顔負けなところがあるS71なので
これに一段の繊細さ。表現の幅が加われば個人的には万々歳。
当社比でがさつさ八割減。
45年前のプリメインがこれだけ鳴ったら誰が文句をいえようか?
6月8日
と言いながら人間の欲望にはキリが無く、ブロックコンデンサーに
1μFのフィルムをパラってみる。
考えてみると以前にもやったのだが、その時は興味本位の実験という意味合いで
パーツ自体も、どうかな?という物だった。
今回はルビコンのしっかりした物を使用。
そのプラシーボもあるかもしれないが、より爽やかに鳴る。
後は…と考えると幾らでもあるが壊さない内に止めておこう。
ご参考まで、「オーディオA級ライセンス」で取り上げられていることは
このJA-S71に実際に長岡先生が行ったことを基に書かれていると思って間違いない。
改造記事は週刊FMにも紹介されていた気もするが記憶違いかもしれない。
そしてこの改造JA-S71はその後長岡先生のご子息の元に収まり、
スピーカーは偶然にもダイヤトーンDS-5Bなのであった。
6月9日
ちょっと待てよ。何のためのJA-S71。
何のためのメンテナンス?と考えたら
鈍器系スピーカーを鳴らすためではないか。
いつの間にかピントがずれてS71でG7を鳴らしていた。
まあそれだけS71のパフォーマンスが凄いという事でもあるのだが、
ここは今回の企画の原点回帰。
またしてもミニスピーカーのタワーを作った。
で、DS-5Bはやっぱり上手だなーと思わせる。
良い意味で要らない音はネグって肝心な音を気持ちよく聞かせて来る。
付き合っていて大変楽しいのだ。
ガツンと鳴らす感じではJA-S71の威力も発揮される。
ただ、トータルで考えると案外この間の
SU-C1010+AST-A10のローブーストが良いいかもしれない。
この辺はどこの帯域をどんな風に持ち上げられるかに
掛かっていて、S71のラウンドネスやトーンコントロールの
設定が、そうした目的に適っているかどうか?の問題になってしまう。
その点でAIWA S-A60は上手なのである。
一般のローブーストでは下手をすると人の声の帯域迄被ってしまう。
ま、こればかりは仕方ない。
それよりも鈍器のお陰で色々なアンプが活躍出来て
S71も新しい命を吹き込む事が出来た。
これは思わぬ副産物。
もうひとつ。これらの組み合わせで久しぶりに聴くFMが
また楽しい。
良い事の玉突きは大いに歓迎だ。
6月10日
この「オーディオ日記」なる物を書いていて一番嬉しいのは
想いも掛けずお便りを頂く事だ。
今回も「週刊FMにJA-S71の改造の記事、確かに載っていましたよ」と
Tさんからお知らせを頂いてしまった。
Tさんにお世話になるのは今回が初めてじゃあないのである。
かたじけない。感謝いたします。
そんな事もあってJA-S71に再びG7を繋いでみた。
ついでにデジタルプレーヤーもメインのDV-AX10にして
各種ケーブルも少しだけ奢った。
音は随分お洒落に?なる。
半分嘘で半分本当だ。
S71の内部配線も高品位の物に換えたら一段音は良くなる?
なる可能性は50%くらいある。
改めてアンプ改良のためのポイントはなにか?
〇接点はかなり大きなポイントになる
→信号が通ることを考えると各スイッチの接点は実に
頼りなく脆弱である。
これはいかんともしがたいので、飛ばせるスイッチは飛ばすに限る。
〇見えない接点としてワイヤラッピングがある。
→すなわち悪いわけでは無いが色々考えると
もう少ししっかりした配線を半田付け。
いや、あるいはコネクター化してしまう手もある。
〇経路の短縮化。
→プリ、メイン間の要らぬ?ケーブルは除去した。
これは大きい。
他にも例えばVictorお得意のフロントのTAPE端子から入力した方が
プリ部への距離は短くなる。
フォノも別体のフォノイコを経由させてフロントから入れた方が良い?
あ、これは使いこなしの部類か。
失礼。
以上が全てではないが、理屈に適った部分だろう。
次にパーツの品位を上げるというのがあるが
これは必ずしも吉と出るかはわからない。
電源基板にあるダイオード。
変わった形状になっているが四本でブリッジ。
ヒートシンクを背負っているところが本格的である。
6月11日
ここまでS71のLINE入力ばかり聴いてきた。
別にそれで構わないのだが思いっきりアナログ時代の
アンプでアナログを聴かないのも妙な気がして繋いでみた。
GT-2000+WE407/23に最初はVM540MLを付けてみる。
なにせMCブームなんかよりも前のアンプだからMMが基本だ。
音だがやっぱりこっちの方が。
アナログの方がしっくりくる。
思いっ切りつまらない?結果が出たところで
悪戯心を起こしてAT-33Eを引っ張り出してみた。
そのままでは使えないのでトランス、AU-300LCで昇圧。
こんな時とにかく便利だ。細かい事を言ってはいけない。
どう?と言うと33Eらしさが出ている。
…いや、33Eがちょっぴり大人しく鳴っている?
ま、その辺はこの後の変化もあるだろうから
言葉の独り歩きをさせてはいけないのだ。