さて、YSA−2はその形状から いかにもトラッキングエラー歪とかかわりが深そうだ。 それ故に、であろうが、「YSA−2技術解説書」に おいては、「レコード再生における歪の一般的解説」 という項目が設けられている。
何やら難しそうだが、大切なのは 音溝半径(R)によりトラッキングアングルが変化する という事、及びそのトラッキングアングルは オーバーハングの量(S)によっても変化するという事が 読み取れれば良い。 図6は、そのオーバーハングの量とトラッキングアングルの 相関関係を示している。 オーバーハングの量(S)を最適に選ぶと レコードの外周から内周でのトラッキングアングルが ほぼ一定の値を示すようになる。 YSA−1(オフセットあり)ではトラッキングアングルと 等しいオフセットアングル20°をつける事で トラッキングエラーが微少となる。 (図6でS=14oの部分をご参照) 対してYSA−2ではオフセットアングルが0°。 なので外周と内周でトラッキングアングルが均等に なるようにオーバーハング量が選ばれているが レコードの外周と内周では10°のトラッキングエラーが 発生しているのがわかる。 (図6のS=−20o参照)
関係について言及している。 図7はトラッキングアングルがズレた状態及び ズレていない状態の拡大図だ。 YSA−2では針先が図中のように10°傾いている事になる。 (左端の物のみ傾いていない状態を示している) トラッキングアングルが10°ずれるとどうなるのか?。 a)L−R間に時間ズレが生じる。 b)トラッキングエラー歪が発生する。 以上の2つの大きな問題が発生してしまう。 しかし、本当にそうなのか?。 それについての検討が「解説書」では続けられている。
トラッキングエラーがあると、上の図8に示すように 実線の信号波形が点線のような歪を受けた波形として 取り出される事になる。 「技術解説書」では難しい数式も出て来るが 要は線速度の遅くなるレコード内周で歪が大きくなる事が つかめれば良い。
トレーシング歪の解説に移っている。 トラッキング歪もトレーシング歪も 録音カッターとカートリッジの針先形状の違いから起きる。 図9がトレーシング歪を示す。 これはカートリッジの針先が曲率を持っているために生じる。 ここにも難解な数式が登場するのだが それは省く。 図10はトレーシング歪との比較のため 入力信号を同一にして計算したトラッキング歪の結果だ。 ここで肝心な事は トラッキング歪よりもレコード内周でのトレーシング歪の方が 増加が大きいということだ。 図11はトレーシング歪の、 図12はトラッキングエラー歪の、 それぞれの周波数に対する傾向を示す。 更に図13〜15は一般に使用される カートリッジの針先形状。 併せてご覧頂きたい。
トラッキングエラーを微少に抑えたYSA−1と ピュアストレートアームYSA−2で実際に同じテストレコードの 信号を再生して比較した実測データ−が下の図16である。
a)L−R間の時間ズレが生じるという問題は、 最も時間ズレが大きくなる内周部でさえ7μsecであり これは左右のスピーカーを前後にたった2,1mmずらしたのと 同じだけの差異である。 f90°=35,7kHz が位相ズレの影響が出て来る周波数とすれば はるかに可聴帯域を越えている。 そして、 b)トラッキングエラー歪が発生する、という問題は、 実測データ−(図16)を見る限り YSA−2ではトラッキングエラーが10°も発生しているはずの 外周でも、(トラッキングエラーを小さく抑えた)YSA−1と ほとんど同じレベルの歪しか発生していない事がわかる。 「技術解説書」では、これを以下のように結論づけている。 “これはトレーシング歪およびレコードの残留ノイズなどの影響が大きく、 トラッキング歪がマスクされた結果です。 また、どのようなアームでも起こるトレーシング歪では、 内周へ行くほど線速度(V)が遅くなり、 トレーシング歪の増加はトラッキング歪の増加を 大きく上回ってしまうことがわかります。 以上のデータ−などから、問題として考えられていた トラッキングエラーも、YSA−2では大した問題となっていなかった事を 示しています。”
当たり前?。 それは確かにそうだ。 だが、誤解を避けるために、同「技術解説書」の 一番最後に目を通そう。 そこにはこんな事が書かれている。 “音質を追求するオーディオメカニズムにおける二律背反の 矛盾の中から、真に何が必要なのか?という疑問における ヤマハからの問題提起です。 さあ、愛聴盤をターンテーブルに載せてください。 ほんとうの音楽ファンであり、アナログサウンドを愛するあなたの 豊かな音楽的感性と、とぎすまされた聴覚によって、 ご自身でその結論を発見してください。” 更に、今まで伏せていたが、「技術解説書」の冒頭には このような事も書かれている。 “トーンアームの音質を決定する要素はたくさんあり、 多くの場合あちらを立てればこちら立たずといった 拮抗関係にあります。 従って、アームの完成度はそれらの諸要素を いかにバランスよく組み上げるかという点で決まります。 ピュアストレートアームYSA−2の場合、 トラッキングエラーに問題はあるが、 アームの剛性を高めるということが音質を決定する 重要なポイントではないか?という予測のもとに 数々の素材と構造を検討し、 既成理論にとらわれずに試作と試聴を念入りに行ない、 理屈抜きにアナログディスクの奥深い魅力を楽しんでいただける トーンアームづくりということにポイントをしぼって 開発が進められました。”
ヤマハがYSA−2に懸けた情熱を見出せないだろうか?。 音に全てを語らせる、という事からすれば このような「技術解説書」は余計といえば余計なのだろうが あればあったで一層楽しい事は間違いない。 だから余計なお世話と知りつつご紹介した次第。 それにしても、ぎりぎりの“良い時代”だったのだろう。 YSA−2がリリースされた’85年といえば 時代が勢い良くCDに流れ始めていた頃だ。 あと少し遅れていたら、当然商品化はなされなかっただろう。 第一、GTプレーヤーという母体が無ければ 絶対生まれていない。 YSA−2は大手メーカーがリリース出来た 最後のピュアストレートアームなのだ。 ピュアストレートが是か非かはこの際問題では無い。 限定で1,500本しか発売されなかったと訊くこのアーム。 現存するのはどれくらいなのだろう?。 形ある物はいつか壊れる。 今この時に、精一杯使ってあげたいと思う よっしーなのでありました。
よっぽど曲がった事の嫌いな人が作ったに違いない、、、 と、ボケておきましょう。(笑)
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