9月25日

さて、YSA−2はその形状から
いかにもトラッキングエラー歪とかかわりが深そうだ

それ故に、であろうが、「YSA−2技術解説書」に
おいては、「レコード再生における歪の一般的解説
という項目が設けられている。

上の図5をご覧頂きたい。
何やら難しそうだが、大切なのは
音溝半径)によりトラッキングアングルが変化する
という事、及びそのトラッキングアングルは
オーバーハングの量)によっても変化するという事が
読み取れれば良い。

図6は、そのオーバーハングの量とトラッキングアングルの
相関関係を示している。

オーバーハングの量()を最適に選ぶと
レコードの外周から内周でのトラッキングアングルが
ほぼ一定の値を示すようになる。

YSA−1(オフセットあり)ではトラッキングアングルと
等しいオフセットアングル20°をつける事で
トラッキングエラーが微少となる。
(図6でS=14oの部分をご参照)

対してYSA−2ではオフセットアングルが0°。
なので外周と内周でトラッキングアングルが均等に
なるようにオーバーハング量が選ばれているが
レコードの外周と内周では10°のトラッキングエラー
発生し
ているのがわかる。
(図6のS=−20o参照)


技術解説書」では次に音溝と針先の
関係
について言及している。

図7トラッキングアングルがズレた状態及び
ズレていない状態の拡大図だ。

YSA−2では針先図中のように10°傾いている事になる。
(左端の物のみ傾いていない状態を示している)

トラッキングアングルが10°ずれるとどうなるのか?。

a)L−R間に時間ズレが生じる。
b)トラッキングエラー歪が発生する。

以上の2つの大きな問題が発生してしまう。
しかし、本当にそうなのか?
それについての検討が「解説書」では続けられている。


トラッキングエラーがあると、どの程度の歪が生ずるのか?。

トラッキングエラーがあると、上の図8に示すように
実線の信号波形が点線のような歪を受けた波形として
取り出される事になる。

「技術解説書」では難しい数式も出て来るが
要は線速度の遅くなるレコード内周で歪が大きくなる事が
つかめれば良い。


「技術解説書」では、次には
トレーシング歪の解説に移っている。

トラッキング歪もトレーシング歪も
録音カッターとカートリッジの針先形状の違いから起きる。

図9がトレーシング歪を示す。
これはカートリッジの針先が曲率を持っているために生じる。

ここにも難解な数式が登場するのだが
それは省く。

図10はトレーシング歪との比較のため
入力信号を同一にして計算したトラッキング歪の結果だ。

ここで肝心な事は
トラッキング歪よりもレコード内周でのトレーシング歪の方が
増加が大きい
ということだ。

図11はトレーシング歪の、
図12はトラッキングエラー歪の、
それぞれの周波数に対する傾向を示す。

更に図13〜15は一般に使用される
カートリッジの針先形状

併せてご覧頂きたい。


以上のややっこしい論理を踏まえつつ、
トラッキングエラーを微少に抑えたYSA−1
ピュアストレートアームYSA−2で実際に同じテストレコードの
信号を再生
して比較した実測データ−が下の図16である。

結局、

a)L−R間の時間ズレが生じるという問題は、

最も時間ズレが大きくなる内周部でさえ7μsecであり
これは左右のスピーカーを前後にたった2,1mmずらしたのと
同じだけの差異
である。

f90°=35,7kHz が位相ズレの影響が出て来る周波数とすれば
はるかに可聴帯域を越えている

そして、

b)トラッキングエラー歪が発生する、という問題は、
実測データ−(図16)を見る限り
YSA−2ではトラッキングエラーが10°も発生しているはずの
外周でも、(トラッキングエラーを小さく抑えた)YSA−1と
ほとんど同じレベルの歪しか発生していない事がわかる。

技術解説書」では、これを以下のように結論づけている。

これはトレーシング歪およびレコードの残留ノイズなどの影響が大きく、
トラッキング歪がマスクされた結果です。

また、どのようなアームでも起こるトレーシング歪では、
内周へ行くほど線速度(V)が遅くなり、
トレーシング歪の増加はトラッキング歪の増加を
大きく上回ってしまうことがわかります。

以上のデータ−などから、問題として考えられていた
トラッキングエラーも、YSA−2では大した問題となっていなかった事を
示しています。”


YSA−2の解説書でYSA−2が擁護されているのは
当たり前?。

それは確かにそうだ。

だが、誤解を避けるために、同「技術解説書」の
一番最後に目を通そう。
そこにはこんな事が書かれている。

“音質を追求するオーディオメカニズムにおける二律背反の
矛盾の中から、
真に何が必要なのか?という疑問における
ヤマハからの問題提起です。

さあ、愛聴盤をターンテーブルに載せてください。
ほんとうの音楽ファンであり、アナログサウンドを愛するあなたの
豊かな音楽的感性と、とぎすまされた聴覚によって、
ご自身でその結論を発見してください。”

更に、今まで伏せていたが、「技術解説書」の冒頭には
このような事も書かれている。

“トーンアームの音質を決定する要素はたくさんあり、
多くの場合あちらを立てればこちら立たずといった
拮抗関係にあります。

従って、アームの完成度はそれらの諸要素を
いかにバランスよく組み上げるかという点で決まります。

ピュアストレートアームYSA−2の場合、
トラッキングエラーに問題はあるが、
アームの剛性を高めるということが音質を決定する
重要なポイントではないか?
という予測のもとに
数々の素材と構造を検討し、
既成理論にとらわれずに試作と試聴を念入りに行ない、
理屈抜きにアナログディスクの奥深い魅力を楽しんでいただける
トーンアームづくりということにポイントをしぼって
開発が進められました。”


どうだろう?、以上の部分に
ヤマハがYSA−2に懸けた情熱を見出せないだろうか?。

音に全てを語らせる、という事からすれば
このような「技術解説書」は余計といえば余計なのだろうが
あればあったで一層楽しい事は間違いない。
だから余計なお世話と知りつつご紹介した次第。

それにしても、ぎりぎりの“良い時代”だったのだろう。

YSA−2がリリースされた’85年といえば
時代が勢い良くCDに流れ始めていた頃だ。

あと少し遅れていたら、当然商品化はなされなかっただろう。
第一、GTプレーヤーという母体が無ければ
絶対生まれていない。

YSA−2は大手メーカーがリリース出来た
最後のピュアストレートアームなのだ。

ピュアストレートが是か非かはこの際問題では無い。

限定で1,500本しか発売されなかったと訊くこのアーム。
現存するのはどれくらいなのだろう?。

形ある物はいつか壊れる。
今この時に、精一杯使ってあげたいと思う
よっしーなのでありました。

しかし、まあ、こりゃホントに真っ直ぐで、、、

よっぽど曲がった事の嫌いな人が作ったに違いない、、、

と、ボケておきましょう。(笑)


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