音楽の響き 音楽は楽しい。 音楽がある人生と、音楽がない人生とでは 雲泥の差だ。 もしも仮に音楽がない世界などというものが 存在して、 そこで生きなければならなかったとしたら、 僕は一生不自然な微笑みしかできなかったかもしれない。 あるいは空虚なあなぼこをいつも心の片隅に抱えて 猜疑心に溢れて生きなければならなかったであろう。 音楽には人々の心を和ませる何かがある。 (中略) 政治が困窮し、人々がどこかかまびすしくなって、 金銭的欲求に向ってのみ走るようになると、 世界はぎすぎすしはじめ、息苦しくなる。 そんな時僕達はふと音楽を呼吸したくなる。 世界は武力でしか統合できないという考え方は 人間の奢りが産みだした恐ろしい欺瞞だ。 世界は一部の警察的な国家による軍事力で束ねられようとしているが、 これほど悲しいことはない。 経済大国にしか素晴らしい音楽がないなどという考えは 思い上がりだ。 本来なら、音楽が軍事力に代わって世界を一つの理想郷にすべきなのだ。 音楽の可能性はまだまだ無限にあるのだと思う。 人口が増え、貧富の差が増し、 飢餓で毎日何万人もの子供たちが飢えて死んでいく現代。 我々は美しい国境に地雷などを埋め込むような 極悪に手をかさず、音楽で武装するべきだろう。 我々は、核爆弾や細菌兵器なんかを作らず、 美しい音楽を街中に溢れさせるべきだろう。 音楽には人を癒す力がある。 音楽には人を救う力がある。 音楽には希望を投げかける未来への育みがある。 生きていくことは歌うことだと僕は考える。 歌わない人間なんていない。 声に出すことはなくとも 心の中で人はメロディを響かせることができるのだ。 (中略) 最近子供ができた。 子守歌を歌ってやると、寝ぐずが酷かった子がすやすやと眠ってしまう。 僕の中にある最も古い記憶の一つに、 祖母が歌ってくれた九州地方の子守歌がある。 歌詞までは覚えていないが、 メロディだけは30年以上経った今も忘れられず覚えている。 時々思い出しては今は存在しない祖母を懐かしんで、 メロディを反芻する。 人間は先祖から音楽を通して人生の素晴らしさを 伝授されてきた動物なのだ。 音楽は素晴らしい。
「音楽が終わった夜に」という本を買った。 著者は辻仁成さん。 元ロックバンド「エコーズ」のボーカリストであり、 後に「海峡の光」で芥川賞を受賞する作家になった人である。 上記文章は、「音楽が終わった夜に」という本の ほぼ最終章にあたる「音楽の響き」という一節からの抜粋である。 「音楽が終わった夜に」は素晴らしい一冊だった。 (前出の一節だけで全体をイメージしてはいけないが、、) だからいつかこの本について書いてみたいと思っていた。 その矢先、遠い国で不愉快な事件が起きた。 事件の真相はまだわからないし、 複雑な政治の裏の裏の事は僕には理解し難い。 ただ一つ言える事は 僕は今、大変不愉快な気持ちでいっぱいだと言う事だ。 こんなに早く、こんなきっかけで辻さんの本を取り上げる事になるとは 思いもしなかった。
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