さて、ここからは比較的最近起こったことを書こう。
いつまでも昔話に浸っていてもしかたあるまい。

1999年9月のある日、突然一本の電話が入った。
(まあ、電話と言うのはいつだって突然来るものだが。)
電話の向こうの人はこう言った。
「こちらオーディオベーシックの小川と申します。このたびはアンケートで読者訪問をご希望いただいてありがとうございます。つきましてはご都合よろしい時にお邪魔させて頂きたいのですが。」
、、、?。
読者訪問?、なんの事だろう?。
まてよ、たしかにオーディオベーシックのVol12のアンケートには答えたぞ。
しかし、、、。そう言えば読者訪問を希望しますか、の項目でします、に丸をつけたような、、、。
だが、しかし、いまだかつてそれで反応があったためしがないのだから、こっちはいい加減に希望したんだよ〜、と言いたかったが、そんな事今さら言えるはずが無い。
ああ、はい、とかなんとか、曖昧な返事をして、近日中に訪問希望日を連絡すると言って電話を切った。
「おい、大変だ、家に取材が来るぞ。」と、まずかみさんに告げ。
この時はかなりうろたえた様子だったはずだ。
しかし、かみさんは至って冷静。大体こういう時は当事者で無い方が落ち着いているもんだ。
とにかく私は舞い上がっていた。
嬉しくて、ではない。うかつに石を投げたら、見事によその家の窓に当たってガラスを木っ端微塵にしてしまった子供のような心境だった。
(まずいことになった、、、)。
しかし、今更後戻りは出来ないのである。

さて、取材は1週間後に決まった。
本当はもう少し時間が欲しかったが、双方の都合が合うのがそこしかなかったのである。
もう一つおまけに、試聴ご希望の品があれば、ご用意しますが、と言われて、これといって思いつかなかった私は、うかつにもソニーのSACDプレーヤーをリクエストしてしまったのだ。
旬の物だけに押さえられるかどうかわかりませんが、、、と言われたが、取材にかこつけて普段聴けない物を聴こうなどとは思っていないので、その時は別な物でいいや、くらいに構えていたら、どういうわけか無事借りることが出来た様子。
それは結構。しかし、その後がいけない。
「当日SACDと通常のCDの比較試聴などして頂こうかと思います。」、と言われてもう一度後悔。
それで違いがわからなければ、私の立場はどうなってしまうんでしょう?。

まあ、いい。とにかく取材に来ていただく方達に不快な思いだけはさせてはいけない、と言うことで、せめて掃除だけは徹底的にしようと相成った。
音の方は今更下手にいじらないほうがいい。

とは言うものの、よくよく見てみると気になるところのオンパレードである。
SPコードがいい加減。電源コードもいい加減。極性なんて、いつ合わせたっけ?。
それらはなんとか格好つけておかなければいけない。
あと、かたづけはもちろん、愛聴盤は、などと言われたに時困らないようにAD,CDともピックアップしておく。
その一方で、たくさんある機材のコレクションでも見てもらってお茶を濁そうなどと考え、日ごろはタンスや押し入れにしまわれっぱなしのもの達を引っ張り出しては磨きをかけることにする。
ちょうどこの頃、パイオニアのM−22のパワートランジスターが手に入った事もあって、修理完了目前となっていた。
どうせなら取材に間に合わせようと張り切る。
この決意がまた余計だったようで、せいぜい一、二回行けば済むはずだった秋葉原に、1週間ほとんど毎日通うはめになってしまった。
毎日深夜までかたづけ。調整、アンプの修理。
こんなに集中したのは、オーディオを始めて以来の事だ。
大変だった。しかし、思い返しても楽しい毎日だった。
取材が来るから、という大義名分があればこそ、家族も邪魔はしないのだ。

さて、取材当日が来た。
拙宅においで頂いたのはお二人。ライターでありエディターである小川洋さん。カメラマンの山本耕司さん。
取りあえずメインシステムのある部屋、(と言ってもこの頃は思うところあって食卓にシステムは置いてあったのだが)にお通しする。
最初に一応インタビューのようなものがあり、ついで写真撮影。
俺の写真なんてどうでもいいんだよ、と思うが、そうもいかない。ご要望におこたえしてポーズもとる。

つぎにいよいよSACDとCDの聴き比べ。緊張の一瞬。
SACD−1は前々日帰宅したら届いていたので取材の前の日は真剣に聴いた。
あまりに真剣に聴きすぎて頭が痛くなったほどだ。何事もほどほどにしなければいけない。
SACDとC同一タイトル、という事でまずは高橋美智子の「21世紀へのプレリュード」
コントラバスマリバの鳴る辺りを比較試聴。
う〜ん、違いがあまりわからない。
これは我が家のシステムが低音不足なためと思い、素直にその事を告げる。
しかし、違うトラックでは音の重なりなどが良くわかり、ホッと一安心。
次の「DAISHINデビュー」、はもっとわかりやすい。違いは明白
コメントを述べて、これで一安心。
それにしても、SACDの潜在能力は恐ろしいものがある。
お借りして聴いたケイコのリー「ビューティフルラブ」なんか生々しいの一言だ。
問題はソフトが出揃うかどうかだろう。

さて、ここから当方手持ちのソフトをあれこれ掛けるが、予想どうり低音不足を指摘される。
正確に言うと重低音不足と言う事になる。
ここでは詳しく触れないが、これはなかなか改善が難しい問題である。
少なくともその日のうちに、どうこうと言うレベルの問題ではない。
小川さんから、共鳴管を多少カットしてでも開口部をオリジナルの位置、(つまり上方)に戻してみては、などとアドバイスを受ける。これは試してみる価値がある。
何を隠そう、小川さんはその昔音元出版のAVレビューにてネッシーJrの企画など立てた人。
その時作られたネッシーJrは自宅にも持ちこんでお聴きになったそうだ。
今もD−55やHMA−9500を使うという、言わば長岡党の一人。
だからおっしゃる事も私にとってはわかりやすい。
色々お話を伺う内に、私も俄然やる気が出てきた。今まで一つ伸ばしにしてきたが、いよいよ何とかしよう、という気になったのだ。
それだけでも取材に来ていただいた甲斐があったというもの。

まあ、ずっと音だけ聴いていたわけではない。
小川さんも山本さんも、大のオーディオマニア。話しも色々はずむ。
途中から私も乗って来て、サブシステムの部屋にもご招待してそっちも見てもらう。
山本さんがストレートアームのお話などされたので、GT−2000についたYSA−2でも見てもらおうと思い、手を引いて拉致して行ってしまったのだ。
ついでにM−22や、パッシブコントローラー、DATウオークマン、TC−D5M、JBL075ツイーターなど一山もお目に掛ける。
山本さんには、私が物マニアであることをすっかり見抜かれてしまう。(誰だってわかるか?)
こちらも調子に乗って、入手方法やらそのローコストぶりも語り始めたらお二人とも目が点になっていた。
例えば愛聴盤と言う事でご紹介頂いたデイブクルーシンの「ディスカバードアゲイン」なんか入手価格100円である。(一応シェフィールドのダイレクトディスクなんだけど、、、)これじゃあ、たいてい驚くか。

そんなこんなで、あっという間に時間が過ぎてしまった。
本当はもっともっと話していたかったのだが、こちらが遠慮してしまった。
最後にお願い、と言うことで2階の弟のAVルームも見てもらう
「取材が来るから、お前の部屋も見るかもよ。」なんて言ってかたづけをさせてしまった手前、まるっきり出番なしではさすがに気の毒だと思ったからだ。
まあ少しだけ、と言うことでデモンストレーション効果のある物をドーンとお掛けしたので、お二人とも金縛りにあっていた。(お気の毒)

お二人を車で駅までお送りして、楽しい時間は終わり。
家に帰るとかみさんが、今日は外食でご馳走してくれるんだよね〜、という顔をして待っていた。
今日ばかりは異論がない。
焼肉やさんでビールを飲んだら、あっという間に酔いがまわった。
家に帰ったらふらふら。1週間の疲れがどっと出た様子。
でも、かみさんも「本当に楽しかった」、と目を輝かせていたので、よかったよかった、と思う私であった。


無事出版となり、手元に届けられた一冊。

初めて本を開いた時は、いや〜もう恥ずかしいのなんのって、
穴が無くても掘って入りたい心境でした。(本当)

掲載されて良かった、と思えたのは、随分時間がたってからです。


某月某日、栃木県O市に小川さんを訪ねる。
小川さんとは言うまでも無い、オーディオベーシックの取材で拙宅にお越しいただいた、小川洋さんだ。
取材の後のメールで、ぜひ一度、今度はがお邪魔させてください、と厚かましくも打診させていただいたのが実を結んだのだ。
上野駅から約一時間。駅まではお車でのお迎えつきで小川さん宅へ。
閑静な住宅街の、恵まれた敷地の中に一軒家が建っている。
早速お通しいただいたリスニングルームは約十六畳の広さ。
広いのも羨ましいが、何より専用部屋というのが羨ましい。
そして、そこにある機材だが、メインスピーカーとしてD−55があり、その背後、部屋のコーナーにはスーパーウーファーのDRW−3がドーンとそびえたっている。
さらにマトリックス接続されたリアスピーカー(本当はリアではなくサイドに置かれている)があり、こちらのユニットはFE−107×2。
それらのスピーカーの駆動を1手に引き受けているのはHMA−9500。プリはPRA−2000ZR。CDプレーヤーはDCD−S10U。アナログはSP−10V、WE−407/23、WE−308を自作キャビネットに収めた物。カートリッジはDL−103。
この他にレコーディングの専門家の小川さんらしく、DAT−07Aがあったり、ビジュアル系の機材一式があったりと枚挙にいとまがないが、きりが無いので以下省略。
さて、早速に音出し。
最初の音が出て、あ然。
全くスピーカーを意識させないで音が鳴っている。視野に六本のスピーカーが入っていると言うのにだ。
これは困った物を聴いてしまったと思ったが後の祭。
次々とお掛けいただくのは小川さんご自身が録音したCD達。
その一部は、FMfan誌1999年vol 27でも紹介されているが、小川さんの録音は、基本的にマイク二本のワンポイント録音。
別にオーディオマニア向けを狙っているわけではないのだろうが、結果的にはオーディオマニア必聴盤のような出来あがりとなっている。
本業はもちろんライターでいらっしゃるのだが、録音の方も超一流。
しかも、ポータブルDATとマイク二本だけで、日本各地はおろか海外まで遠征されて、そこでしか聴けない(録れない)ものを収めて来るあたり、日本人版デビットリュイストン(ご存知でしょうが、ノンサッチの民族音楽をたくさん録音した方です)の感さえある。
なにしろそのCDを録音した人が隣に座って解説をしてくれながら音を聴けるのだから、こんなゼイタクな事も無いのではないか?。
あれこれお聞かせいただいた上に、ハイライトシーンを集めたスペシャルCD−Rをお土産にいただいてしまい恐縮。
小川さんの録音、そして録音対象は私好みであり、このCD−Rは愛聴盤となってしまった。
後日、このCD-Rに収められた斉藤徹の「インヴィテイション」(ORCD−001)とHIROKO&HIROMIの「Silver Moon」(GS−001)は、おーらいれこーど(TEL090−8389−8408)より取り寄せて購入させていただいた。
さて、音の方に話を戻す。小川さんのメインスピーカーはD−55。これは私自身も以前自作して使っていた物。府中のIさんも使用中。細かい違いはともかく、大体の音傾向はわかっているつもりだが、ここで聞こえる音はかなり感じが違う。
スーパーツイーターが違うとか、コンデンサがー違うとかいったような事も影響はあるのだろうが、最大の違いは、小川さんのシステムはD−55、DRW−3、そしてリア(サイド)スピーカーの三位一体せ成立しているところだろう。単純にD−55が鳴っているのとはわけが違うのである。
リアスピーカーなど、鳴っているかいないかわからない位の効かせ方なのだが、これも無くなれば音場は一変してしまうに違いない。
そして、やはり印象的なのはスーパーウーファー、DRW−3。
ローエンド不足はBHの宿命で、これをなんとかしようとすれば、ホーン長を長くした上で開口も大きく取らなければならない。
そうなると、今度はトランジェントの悪化が心配。低音は出ても質が悪く、垂れ流しになりかねない。
そこでスーパーウーファーの登場となるが、これまた難しい。
なにが難しいと言ってスーパーウーファーというのは、どうしてもデカクなるのである。
特にDRWのようにキャビネット自体にローパスフィルターの役割を持たせようとすると、大きいのを通り越して、正に巨大、とも言えるサイズに成らざるを得ない。
それがポン、と置けてしまうあたりがさすが16畳の専用ルーム。うらやましい。
DRW付きのBHの音を聴くのは初めてであったが、その効果は絶大で、特に超低音までたっぷり入ったソフトは、一度この音を聴いてしまうと、スーパーウーファー無しではもう聴けない、という感じ。
小川さんのご好意で、次から次へ、といかにも当方の好きそうなソフトを、ADまで含めてお掛けいただく。
なにせソフトの数も半端ではない。マニア好みの名盤が壁を埋め尽くしている。
その合間にお聞かせいただくお話しが又面白い。中にはギョーカイの裏話しのようなものもあったが、それは当然オフレコ。
さて、小川さんは今後このリスニングルームで、CDのマスタリングまで出来るようにしたいとお考えとの事。
より納得いCD作りのためには、そこまでやらなければならないのだろう。
すでに具体な的準備が始まっているとのことで、これが実現すると、世にも珍しい長岡式SPをモニターにしたCDが出来るわけで、一日も早く実現して欲しい。
延々8時間近くもお邪魔してしまったわけで、なんとも申し訳無い気持ちですが、あっという間に時間が過ぎていってしまったというのが実感でした。
小川さん、あらためて、ありがとうございました。


某月某日、(株)フェニックスより電源トランスが到着。
HMA−9500U修理用だ。
HMA−9500Uは今年府中の Iさんより、壊れているけど、と言うことでお譲りいただいた。
はじめてこのHMAをIさんの所でお見かけしてから4年が経っていた。
折にふれ、手放す時は是非、とお願いしておいたのだ。
故障の症状は、電源が全く入らない、というもの。ある日突然だったらしい。
Iさん宅より持ち帰ったHMAをさっそく日立サービスに出したが、修理不能で帰って来てしまった。
原因はLチャンネル電源トランスの一次側断線、との事。
トランスの断線なんて起きるの?、と思ったが外したトランスの一次側をテスターで調べると、確かに導通が無い。
さて、なにを考えたかと言うと、まずトランスの掘り起こしである。
掘り起しとはなんの事やら?、と思われる方もいるだろう。
HMAのトランスは、トランスケースに充填剤で埋め込まれてしまっているのだ。
まあ、これはよくある話で、トランスの振動対策である。
トランスを掘り起こして修理を、と思ったわけである。
しかし、これは途中で断念した。
なぜか?。一日かかっても、トランスのごく一部が顔を覗かせる程度にしか掘れないのである。
硬化した充填剤の硬い事と言ったら物凄く、たがね代わりに使っていたKTCの貫通ドライバーの角が丸まってしまったくらいだ。
トランスやトランスケースを傷つけないように、とコツコツやる様は、完全に考古学者の世界である。アンプの修理をしているとは、お釈迦様でもわかるまい?。
とにかくこれは意味無し、と判断。
次なる手として、トランスメーカーに特注でトランスを作ってもらう事にする。
秋葉原にいったり、ホームページを見てメールを送ったり、と色々アクションを起こすが、反応が芳しくない。
ある所では二つで6万円と言われた。又あるところでは「悪いことは言わないから、馬鹿な事はおやめなさい。」、と親切にたしなめられた(?)。
そんな事言われれば言われるほどやる気が出てくるのが偏屈者の常。
とうとう(株)フェニックスさんに行き当たり、一個一万円くらいで特注ご対応いただけるとの回答を得た。
フェニックスさんのトランスは、最近の松下が好んで使うRコアトランス。
EIコアトランスより磁束漏れが少なく、振動も少ない。しかもコンパクト軽量。生産性の点でトロイダルを上回る、といい事ずくめ。
もちろん形式だけで全てが決まるわけではないが、なんとなく期待が持てるではないか。
解析用に生き残っている方のトランスをお送りして、特注トランスの到着を待つ事しばし、ついにそれが届いたのだ。
さて、問題はケース。
前述の如く、HMAのトランスはトランスケースに充填剤漬けになっている。
と言う事は元のケースにフェニックス製のトランスを収めるという方法は取れないわけだ。
しかし、困った事にHMAのトランスケースは外観デザインの一部でもある。
さて、どうしたものか?。どこか町工場にお願いして、HMAオリジナルのトランスケースと同じサイズ、形状のケースでも作ってもらうか?。
それは可能として、レタリングはどうするのか?。
これまた余り考えすぎると動きが取れない。
実はフェニックス製のトランスが、実際に手元に届くまではトランスケースはまるっきり別に作り、
電源部をセパレートにする方法ばかりを考えていた。
なぜかと言うと寸法表で見る限りでは、作っていただいたトランスは、HMAの元々のトランスケースの寸法では僅差で収まらない計算だったからだ。
で、あれば否も応も無く別体電源方式とするしかないではないか。
ところが届けられた物を実測すると、ギリギリだが元ケースの寸法で収まりそうだ。
ならなんとか収めてみようという気になったのだ。
電源トランスを別筐体に収め、アンプ本体から離すという方法は、雑音源、振動源であるトランスをアンプ回路から遠ざける事が出来るというメリットがある。
しかし、配線が長くなるとか、接点が増えると言ったデメリットも、同時に生じる。
私の場合、音質云々と言う事よりも、配線が増え、筐体がアンプとは別に一つ増えると言う事の方が心理的に気になった。
それともう一つ、HMA本体から別体電源部までの配線を、HMAのボディのどこから引き出すのかという問題が残る。
リアパネルであれ、手を加えるような事はしたくない。
以上トータルで考え、今回は取りあえず適当なケースを作り、そこにトランスを収め、オリジナルのトランスケースと差し替える形でマウントする事に決定。
秋葉原をうろつき、適当なサイズのケースを物色する。
割とあっさりと、タカチ製で大体要求どうりのサイズのが物見つかる。
さすがに元のケースとぴったり同じとは行かないが、そんな物捜しても見つかるわけが無い。
一つ千円足らずと言う事もあり、失敗しても被害はミニマムと判断して買って帰る。

某月某日、いよいよ実作業開始。
まずは買ってきたケースにマウント用のボルトが貫通するための穴を空ける。
位置出しはなるべく正確に、と言う事で、木工用の三角錐ドリルを使用。
おかげでピッタリの穴が空くが、刃先はダメになってしまった。買い直しても数百円の出費なので許す。
続いては、ある意味ではこれが一番大事な、ケースの塗装に入る。
オリジナルに出来るだけ近い色、ということでつや消しの黒を選択。スプレー一本380円なり。
薄く、少しづつ数回に分けて塗装。
これで午前中は終了。
午後に入りケース内にトランスを収める作業に入る。
ここではマウントに一工夫あるのだが、文章でそれを伝えるのは困難至極。
次いでトランスの収まったケースを、アンプ本体にボルトで留める。
マウントを終了したところで、いよいよ結線。間違いの無いよう慎重に。
文章にするとこれだけだが、約3時間が過ぎる。
結線終了。もう待てない。はやる気持ちを抑えきれずスイッチオン!。(火を吹いたらどうしよう?、といつも思う一瞬だ)
プロテクションの赤ランプとパワーの緑ランがプ点灯。数秒の間を置いて、カチンとリレーのつながる音がしてプロテクションのランプだけ消灯。
!。やった!。何事も無かったようにHMAは息を吹き返した!。
しばらくそのまま様子を見るが、異臭もない。
CDプレーヤー、プリアンプ、そしてテスト用の、吹っ飛んでも構わないスピーカーを接続。
音出し。
出た。音も無事出る。
しばらくそのままにして、いよいよメインシステムに組み込み。あらためて音出し。
それまでメインアンプとして使ってきたA−10Vも、充分優秀なアンプだったので、一聴して激変、とは感じなかったが、よく聴くとやはり違いはある。
もっとも顕著なのが、その広い音場。
小鳥は壁の向こうで鳴き、からすが空高くふわりと浮く感じは最高。
雷鳴が天井付近で鳴るのはもちろんだが、その細かい動きまでよくつかめるあたりは出色である。
まあ、こういう時は直った喜びで何を聴いてもよく聞こえる物である。
なんにしてもめでたしメデタシ。
早速Iさんにご報告のお手紙を書く事とする。


某月某日、群馬のKさんよりお電話をいただく。
足掛け四年くらい前に、ビクターMC−L1000を雑誌の交換欄を通じてお譲りいただいて以来のお付き合いの方だ。
「オーディオベーシック見ましたよ〜。」との事でわざわざご連絡を下さったのだ。も〜、赤面ものである。
いただいたお電話で、一時間近くもお喋りしてしまいゴメンナサイ。
Kさんは決して前へ前へ出て来て自己主張するような人ではない。ただ、オーディオに対しての理解の深さは物凄いものがある。
Kさんはスタックスのイヤースピーカーを中心に据えてオーディオを楽しまれている。
一般にヘッドフォンと言うのはスピーカーが使えない時の補助手段のように考えられ勝ちだが、Kさんのお話を伺っていると、それが大きな誤解である事がわかる。
ある意味で、ヘッドフォン(イヤースピーカー)と言うのは、スピーカーなどより遥かにシビアに周辺機器、及びソフトの違いをさらけ出す物のようだ。Kさんのお話を伺うたびにそう思う。(奥が深いぞ〜)
巨大なフロア−ズピーカー。場所ふさぎで、持ち上げようとするとギックリ腰になりかねないアンプ、CDプレーヤー。そしてそれを納得いくまで鳴らすために要求される、法外に広く頑強な部屋、、、。
それも趣味の一つだが、ひどく日常生活から遊離してしまっている事は否めない。
Kさんの選んだ道は、そういった物とは反対側にいる。(CDプレーヤーはDCD−S1をお使いで。す念のため。)
夏にいただいたお手紙には、こんな事が書かれていた。
”近頃のオーディオは、あまりにも科学的考察が不足し、代わりにカルトじみた手法の物(特にアクセサリー類)が多すぎると思います。
理屈だけで音が良くなるとは思いませんが、やはりシャープのように新しい物(註、ΛΣ方式の新しいアンプの事)に挑戦していかないと、、、。「最高の音を出すためには、フロア型SPにマークレビンソンのモノラルペア」では、浮世離れが加速し結果的にはオーディオが衰退するのではないかと心配しています。
そのような流れも否定しませんが、「小さくても良い音を出すための努力」、をしないと、「音に配慮の無いミニコンと、人に優しくないピュアオーディオ」になってしまうような気がしてなりません。”
、、、。拝読した瞬間、あまりにも正鵠を得たお言葉に声も無し、であった。
勝手に引用させていただき申し訳無いが、自分一人で味わうには勿体無い名文なので披露させていただく次第である。
趣味の世界に、正しいも正しくないも無い。ただ、本人にとって良いか悪いかがあるだけである。
だからKさんの主張ばかりが正しいわけではない。
しかし、非常に痛い所を突いている事は確かであろう。
少なくとも私にはそう思えるのである。
Kさんも2000年1月にご結婚との事。おめでとうございます。そして結婚後もオーディオライフを楽しまれる事を願って止みません。(奥様、ご理解の程よろしくです。)


これがKさんにお譲りいただいた電子針圧計、テクニクスSH−50P1。
取り扱いには手間が掛かるが、信頼感は抜群。
特にMC−L1000、L10のように針圧に対してシビア−なカートリッジを扱う身としては必需品。


某月某日、岐阜のYさんからお電話をいただく。
「オーディオベーシック見ましたよ〜 。」とのことで、これまた恐縮の至り。
Yさんは職場からのお電話という事で、長話には至らず。ただ、サブでお使いだったアンプ、オンキョーのP−306RSとM−506RSをお譲りいただく事となり、再び三度恐縮。
リビングでサブシステムとして使用されていたのだが、家族に邪魔者扱いされて引き取り先を検討していた時にベーシックを見て私の事を思い出していただいたご様子。
まあ、確かにご家族にしてみれば、音楽を楽しむにしても本格的なセパレートアンプまでは必要ないわけで、場所ふさぎに思われるのは無理もない。しかし、オーディオが好きな人間が聞くと淋しい話しではある。
数日後、宅急便にて到着。
ちょうど仕事が繁忙期に入ってしまい、すぐに、とはいかなかったが拝聴。
予想に反して、分厚い音がしてびっくり。
これは主にプリの音が支配的な様子。
嬉しい事に、P−306シリーズには、昔から優秀なトーンコントロールが付いている。
ネッシーの低音をブーストしてみたくても、PRA−2000には無かったので(2000Z以降にはある)うきうきしながら試す。
ちょうどネッシーで下降気味の、100HZ以下。特に40〜50HZを中心に持ち上げてくれるので好適。
トーンオフだとさみしい辺りがグンっと盛り上がってくる。
CDのテストトーンで160HZ以下を再生すると、フラットに、とは流石に行かないが20HZまでキッチリ出てくるので家中あっちこっちで共振が起きる。
「これは凄い!。」、と大喜び。
ただ、FE−208Sの振幅はかなりの物になり、ちょっと危険。
低音の再生はやはりウーファーに任せるに限る?。
足掛け20年以上もオーディオをやっていて、初めて身にしみてわかったとは情けない。(?)


某月某日、オーディ装置のお引越し。
オーディオベーシック誌のおかげで全国的に有名になった(?)ネッシーの棲む食卓(?)は無くなった。
ちょっと残念だが、諸般の事情があり元いた部屋に戻っていったのだ。
戻って行ったと言っても、オーディオに脚が生えて歩いていったわけではない。せっせせっせと動かした。
ちょっと数量過剰気味の装置たちを整理して、駆動系はシンプルに徹する。
そしてネッシーは部屋のコーナーに押しこむ形とする。これにはいくつかの狙いがある。
一つは不足気味の低音の増強。
結論から言うと、これはあまり上手くいかなかった。
コーナーを利用すると低音が持ち上がるというのは本当だが、あくまでも硬い壁でないと難しい。設置した所の壁は、軟弱ではないが頑丈と言うほどの物ではない。
それに適確に必要な音域だけを持ち上げるなどと言う芸当は不可能。
まあ、そんな事をしたければグライコでも導入するしかない。
以上を確認した上で、それでも結局ネッシーはコーナー置きとした。
なぜかと言えば視覚的に邪魔でなく、部屋を効率的に、有効活用するにはベストな位置だからだ。
音質は確かに大切だが、私は案外”見た目”、を大切にする。オーディオしている時は、いやが上にもスピーカーの方を向いているのだから、その方角の画適な安定は重要になる。
もう一つ。前回の配置ではスピーカーの間隔がユニット間で計って約90cmしかなかった。
それはそれで悪くはないのだが、今回は思いっきり間隔を開けるセッティングとしてみたくなった。
今度は約2mの距離が左右スピーカー間に取れた。そして、スピーカーからリスニングポイントまでの距離も2m。つまり正三角形の頂点で聴く形になってしまった。
なんだかな〜、と思ったが、座って聴いていると案外具合がいい。
左右のスピーカーが視界から外れ始めるくらいの角度に来る事になったので、ある程度意識しない限りは目に入ってこない。
いくら優秀でルックスのいいスピーカーであっても、眼前にドンっとあったら気になってしまうと言うのが持論。出来ればスピーカーは見えない位でいいと思う私にとっては、これは嬉しいセッティング。
音を出してみると、これまではどうしてもスピーカーから音が出ていると言う感覚が否めなかったが、今回は宙空に音がポッカリ浮かぶ感じとなり、実にいい。
念のため言っておくが、スピーカーの間隔を空ければ音場感が向上するなどと言うものではない。(ベテランの方には申すまでもないが、一応念のため)
今回の変更で、大抵のソフトで音場感が改善された事を実感したが、一部のソフトでは逆に広がりが狭まったように思えた。
どんなソフトかと言えば、バイノーラル録音の物であり、ローランドのRSS技術を用いた物であった。ただ、これはごく少数の例外でしかない。
リスニングポジションはピアノを背にして引きが無い、と決して良くない。
椅子もその位置には置きっぱなしには出来ないので、キャンプ用の折りたたみ椅子のお世話になる羽目になってしまった。
でも、仕方ない。ご家族の皆さんが寝そべってテレビを観られるように、とかパソコンを快適にいじれるように、とかあれこれ気を遣うとこうなってしまうのだ。
まあ、キャンプ用の椅子も悪くない。
適度にダレた姿勢になり、リラックス出来る。音と対決する生活に疲れ気味なので、しばらくはリラックスしたい、という気持ちになりつつあった時でもあったので丁度良かったかもしれない。
なんてあれこれ自分に言い訳している気もするが、住環境はとても良くなったので、これでいいのだ!。


某月某日、一本の電話が入った。

お相手はと言うと、なんと「デジビ」の編集部の方。

用件は、というと読者訪問をさせていただきたい、との事。

「?」、そして、「!」。

前回「オーディオベーシック」の読者訪問のお電話をいただいた時も驚いたが、これまた驚き。

なんのこっちゃい?。立て続けに、しかも同じ共同通信社の雑誌の読者訪問に当たるとは(!)。

念のために申し上げるが、私は共同通信社に何か縁故があるとか、そんな事は一切ない。

確かに「デジビ」の読者アンケートには回答を送った。しかし、そんな事は私にしてみれば日常ごく普通にやっていることで、ぜひぜひ拙宅にご訪問下さい。美味しいものをご用意して待っています、なんぞと書いて送っているわけではない。ただ、淡々と書いてお送りしているに過ぎない。

第一、「デジビ」第2号のアンケートには、読者訪問を希望しますか?、なんていう覧すらない。回答のしようもない。

しかし、冷静になって考えると、第一号のアンケートの際にそんな欄があったような、、、。

それにしても、私の方はついこの間取材に来ていただいたばかり。ネタには事欠かない自信もあるが、いかにせん申し訳ない。

それに「デジビ」、は明らかにビジュアル寄りの雑誌である。私とて、これまでテレビを中心に、お気軽なAVは散々やって来たが、とても取材に耐えるような内容ではない。

そこで考えたのが、同居している弟のAVシステムを見てもらう事。

一応三管が入っているし、DVD、LD共にソフト、ハードが山積みになっている。

そっちの方が遥かにインパクトがあろう。

一瞬にしてそう考え、ご連絡いただいた共同通信社のOさんにその旨伝える。

Oさんも「では、その方向で。」、と快諾してくださった。

これで話しは決まり。

だが、しかし、我が家の2階はゴミの山、山、山、、、。一体どうやったらかたづくのか?、皆目見当もつかない。ましてや、自分の部屋ならともかく、家族であっても他人の部屋。

そう簡単には手を出せない。まあ、なるようになるさ。

某月某日、取材用貸し出し機材到着。

液晶プロジェクター、ソニーVPL−VW10HTとキクチの立ち上げ式スクリーン、UP−80Gだ。

プロジェクターの方はともかく、スクリーンは調達しておかないと、なんぼなんでもプロの人を相手に、紙のスクリーンではまずいだろうと思いリクエストしておいた。

この頃にはかたづけも大体進んでいたので、さっそく視聴。

あ然としたのは、最新の液晶プロジェクターの能力の高さだ。

我が家の旧型三管などは比較にならない。まるで次元の違う画が映し出される。

超高解像度。開いた口がふさがらない。

もちろん、お借りしたプロジェクターの方はプログレッシブ対応なので、その点だけでもアドバンテージはあるが、もっと根本的な所で差があるようだ。

しかも設置は容易。ポンと置いてピント(フォーカス)を合わせるだけ。

三管のように、ちょっとでもずらしたら一から再調整、なんてことは無い。普段は棚の上にでもかたづけておいて、見る時だけ引っ張り出すなんてことも朝飯前。重量もわずか8キログラム。ファンノイズも気にならない。

白い壁に投射する形でも、まず問題はないだろう。なにせ、我が家の紙のスクリーンでも素晴らしい画を見せてくれたくらいだ。

弟は、もうもとの三管は観る気を完全に無くした様子。無理もない。

唯一我が家の三管が勝る部分と言えば、黒がキチンと沈み、黒の中に階調がきちんとあるところ。

液晶では黒が描けない、を痛感した次第でもあった。

ただぞれだけ、と言ってしまえばそれまでだが、黒、と言うか闇のシーンがない映画は無い。

オーディオに例えたら超低音がスッパリ切れてしまっているようなもの?。

雰囲気とかが欠如してしまう感がある。

もっとも、これが克服されれば、誰だって三管など買わず液晶を選ぶようになるだろう。

某月某日、藤原陽祐先生と共同通信社の国広さん、そしてカメラマンの中川さんが到着。

取材の当日が来たわけである。

藤原先生って、どんな人なんだろう、と多少心配もあったが、お会いしてみたら至って気さくな方だったので一安心。

兄に似ず(?)、愚弟の方は人見知りも激しいので、一体全体取材が成立するのかどうか、陰ながら心配していたのだが杞憂に終わった様子。

評論家対読者、という感じではなく、AVマニア同志が語り合っているような雰囲気。

なんとなくアバウトな感じで、そこがピュアオーディオの世界とは異なる所かもしれない。

ラテンの匂いがする。

話題はもっぱら映像の方。音のチェックは無し。

これは多分、弟の部屋にあるSPも長岡氏設計の自作システムであるからだろう。

市販品ならともかく、オーディオ界の重鎮(?)の手による物に批評を加えるような事はしたくないのが道理。それともまともに聴く気がしなかったかな?。


ラックの上に出ているのがH−1000北米仕様。
その下はTA−E9000ES。(どっちもゼイタクだ!)
一番下は、初代コンパチCLD−9000。
(兄弟揃って物持ちの良い事)

リスニングポジションからの風景。
80インチスクリーンはキャンパスペーパーをベニア板に貼っただけの物。
こんな物お見せしてよかったのでしょうか?。


今回の私は完全に裏方。

弟と藤原先生が楽しそうに話すのを、指をくわえて眺めるだけ。

なかなかさみしいものである。

しかし、まあ、このさみしい思いを、前回は弟にさせたかと思うと文句も言えない。

映像のチェックの開始。

一番気になっていたキャンパスペーパーとベニア板による自作のスクリーンについては、あまり問題にされなかった。

情けを掛けていただいたと言うのが本当の所だろうが、このスクリーン、実際の所案外いけるのである。藤原先生も、予想外に使えるので驚いたのではないだろうか?。

コストパフォーマンスは最高。これだけは保証する。

問題はプロジェクターの方。

と言っても、細かい調整には突入しない。

追い込みはまずまず、という判断もあったろうし、三管の調整など始めてしまったら時間が足りなくなってしまう。

この辺は段取りに抜かりが無い。(?)

あっさりとVW10HT登場。

あらためて、こちらの方が断然いい。

途中でライズアップスクリーン、キクチUP−80Gも登場。一段のグレードアップとなる。

しかし、映画マニアの弟にしてみれば黒が描けない事には満足とはいかない。ただ、これは液晶では解決不可能な難問である。

これを多少なりとも改善するための方法として、藤原先生よりご教授いただいたのが部屋を間接照明などでほんのりと明るくするというテクニック。

つまり周囲を明るくする事で、相対的に黒を引き締める、と言うわけだ。

さっそく私の部屋から、スタンドライトを運んで来て試す。

なるほど。ただし、今度はいささか明るすぎる。

やはり、やっつけでは無理だ。調光器など使って、適切な照度を求める必要がある。

結論からすると、やはり多少の灯りを残したいリビングシアターであれば液晶は好適。

それ以上を求めるパーソナルシアターでは三管と格闘するのも良いだろう、と言う事。

さてさて、弟のAVライフは、数多くのマニアを見てきた藤原先生から見ても結構特殊な部類に入る様子。

外盤ソフトの入手方法なども取材されていった。

ただ、この辺の事はあまり雑誌には書かない方がいいですよ、とこちらから進言させていただいた。

なぜかと言えば、雑誌のスポンサーでもある国内メーカーの利益には反するやり方だからだ。

紹介したからと言って、どれほどの人が同じ事をするか、たかが知れているがさわらぬ神にたたり無しであろう。

まあ、たいして広くないスペースで約2時間、皆様お疲れ様でした。

雑誌の出るのを楽しみにさせて頂きましょう。

それにしても、プロジェクターとスクリーンを返却するのが辛い。


デジビ3号。
兄弟とは言え他人のは冷静に見られる。
当日藤原先生はメモも取らずに雑談形式で取材を進められたのだが、記事になってみれば要点を全て押さえた素晴らしい仕上がり。(さすが、プロ!)
また、あのむさ苦しい部屋が、それなりに写っていたのにはビックリ。


さて、ここからは取材内容とは関係ないが、弟のAV装置の内の“A”。つまり音の部分を担う自作スピーカ−システム、「すばる」について、少々説明。

「すばる」は長岡鉄男氏の設計で、AVレビュー誌に発表された物。
FE−83一発のミニサテライト×5本と、10W−150使用のサブウーファー×1本からなるAV用スピーカーで、主としてドルサラなどディスクリート5チャンネルに対応する事を前提としている。

8cmのサテライトとなれば、29インチ位のテレビ用と考えるのが妥当だが、私と弟は、このシステムを最初から80インチスクリーン用として製作した。
もちろん、多少の疑問はあったが、そこはそれ、事前に私の部屋のテレビ用マトリックススピーカー(FE−87×4本使用)を試してみて、十二分、とは言わないが充分には渡り合える事を確かめた上での挑戦であった。
それにコストとしては、6本作って3万円位と格安なので、失敗しても被害はミニマムだと踏んだ。

出来あがってみてビックリ。
これなら120インチ位までいけるのではないか?。
特にサブウーファーは絶品。PA用のユニットと言う事で、例えばオーディオ用スピーカーには厳しいかもしれないが、この様な目的には最適。
やっている人はわかると思うが、映画のサブウーファー領域の音と言うのは強烈なレベルで出て来る。特にディスクリート5,1の0,1チャンネルの信号は凄い。
それをこのウーファーは見事に再生してくれる。
ただ、もう精一杯働いていると言う感じで、大音量再生では、バスレフのダクトから吹き出る風で、そばに置いてあった雑巾がハタハタとはためいていたのには呆れてしまった。

問題があるとしたら、やはりサテライトの方で、コーンが振り切れてしまう事が多々ある。
FE−83の限界と言う説もあるが、キャビネットの内容積が大きすぎるという事の方が問題だろう。
元々「すばる」はディスクリート専用ではなく、マトリックスで使ってもいい様に、サテライトの容積は大き目に取ってある。
背圧が掛かりにくく微小信号の再現性、という点では有利だが、エアーサスペンションが効かず、コーンが振れ過ぎるというマイナス面はある。

ディスクリート専用で使うのなら、サテライトの内容積は半分位でもいい。
これから作りたい人がいたら是非ご参考に。

それさえ除けばコストパフォーマンス最高である。
もっとも、オリジナルのままでもAVアンプのスピーカーサイズの設定をスモールにすれば以上のような問題はほとんど無くなる。
そもそも8cmのサテライトをスピーカーサイズ設定ラージで使う事自体が間違っているとも言える。

ただ、設定スモールで鳴らす音はイマイチ。好みの問題の範疇ではあるが、私や弟の耳には好ましくは聞こえなかった。

あとはサテライトにコンデンサーを入れてローカットしてしまうと言う手があるが、多少なりとも音質は劣化するだろうし、お金もかかる。
そんなお金があったら、サテライトを作りなおしてしまう方がいいだろう。

とにかく、相手が大画面であっても、この組み合わせで堂々と渡り合えるという事は実証出来た。
大きなスクリーンを張ったらスピーカーも巨大な物を5〜6本用意しなければならない、と先入観をお持ちの方もいるだろうがそうでもないようだ。
それに二十畳位の部屋でもない限りは、大画面+大型スピーカーのサラウンドは実現困難。
無理をすれば画にも音にも悪影響が出る。
常識的なサイズの空間で、特に画を犠牲にしないでサラウンドを楽しみたいと言う人には「すばる」方式はおすすめである。


2月20日、山本さんのスタジオを訪ねる。

山本さんとは、もちろん拙宅にご訪問いただいた、カメラマンの山本耕司さんの事だ。

この日は私の他にも二名のお客さんがいた。

お一人は横田兵作さんと言って、奇しくも私と同じ号のオーディオベーシックの読者訪問で登場された方。

もうお一方は、緒方一さん。

横田さんの職場の後輩にあたる方で、横田さんの記事の所にも、ご一緒に登場されている。

実は横田さんも、その昔山本さんが別冊FMfan誌で、長岡鉄男先生のクリニックで取材を受けた際に誌面に登場されていた。つまりお二人は旧知の仲。

私はわけあって遅れて登場したので、挨拶もそこそこに、まずは山本さん宅の音を拝聴する事になる。

「僕の所には自衛隊のレコードとかは無いからな〜。」とかなんとか言いつつ、CDをお掛けいただく。

う〜ん、これまた素晴らしい音が出ている。

印象的なのは奥へおくへと広がっていく音場と、揺るぎの無い定位。

山本さんのホームページをご覧いただければわかるが、スピーカーのセッティングはちょっと変わっている。

いや、変わっているという言い方は妥当ではないだろうが、何しろスピーカーとスピーカー背後の壁の距離は約3mある。

スピーカー後方の壁からの反射の影響を極力避ける方向で、これが独特の音場展開に一役買っている事は間違い無いだろう。

これもスタジオと言う、日常生活からは遊離した空間だからこそ可能なセッティングとも言える。

大変羨ましい。

それにしても、山本さんの装置のラインナップはハイエンドオーディオ的。ほとんどステレオサウンドの世界である。

スピーカーはKEF105 3S。これにスーパーツイーターRT−R9と、スパーウーファーYST−SW500が加わる。

CDはCEC−TL2にゴールドムントmm10。プリはオーディオカレント、パルティータC1。

フォノイコにパスラボAlephone。パワーアンプはゴールドムントmm8。

アナログプレーヤーはゴールドムント STUDIETTO。

(詳しくは山本さんのホームページをご覧になる事をお勧めする。

http://www.tcn-catv.ne.jp/~studio-k/myaudio.html

である。)

ただし、金にあかして、と言う買い方ではない。

正確に紹介するのは困難だが、実に上手な買い物をされている。

(僭越だが、この辺の買い物感覚には山本さんと私、相通じる所があるような、、、。)

さて、この日はハードスケジュール。

お昼を少し過ぎた所で、緒方さんの車にターゲットオーディオのスピーカースタンドとCECのトランスポーズを積み込んで、横田さん宅へ向かう。

横田さんのお宅はオーディオベーシックの記事にもあるように、千葉市の新築マンション。

リビングの一角にオーディオ装置が鎮座している。

「わ〜、雑誌で見た通りだ。」と馬鹿みたいだが感激する。

まず、そのままの状態で音出し。

これまた目を見張るような音が出てくる。

チャリオのアカデミーワンと言うスピーカーは実にコンパクトなのだが、出てくる音は豊かの一言に尽きる。

能率も決して高くない、どころかかなり低いのだが全然そんな気がしないのは、横田さん自作の管球式アンプのドライブ能力が相当高いからだろうか。

(これに比べてうちの音はだいぶバランスがよろしくない。密かに反省。)

さて、いよいよ切り替え試聴。まずはトランスポーズをCECのTL−2に変える。

横田さんはフィリップスのLHH700をトランスポーズ代わりにして、DACはエソテリックのD−3を使っている。

読者訪問の段階では普通にLHH700を使っていらしたのだが、取材用に持ち込まれたビクターのXL−Z999EXの音にショックを受けて、D−3の中古を衝動買いしてしまったとの事。

いっその事ビクターを買った方がよかったのでは?、と山本さんに突っ込まれていたが全ては後の祭。

でも、僕にはその衝動買いの気持ちもよくわかる。

さて、トランスポーズを取り替えてみてどうだったか?。

一言で言うと、演奏にやる気が出てきた感じ。

フィリップスも、それだけ聴いている分にはなんの問題も無いが、CECを使った状態と比べてみると、今一つ冷ややかな表現という事になる。

どうも冷めていると言うか、端的と言うか、本気を出していない演奏のように聞こえてしまう。

いつも思うのだが、人間の耳と言うのは欲張りな物。

知らなければそれで十分満足だった筈なのに、一度前進してしまうと後戻りは出来ない。

協議の末(?)トランスポーズに、やはりエソテリックのP−2(S無しで良い)を中古で捜そうと言う事になった。

この原稿を書いている時点で、あれから1ヶ月半位が過ぎていますが、横田さん、本当にお買いになったのかしら?。

さて、もう一つ。重たい思いをして運んできたターゲットオーディオのスピーカースタンドを設置。

と言っても、これまでお使いだったタオックだって、充分重い。

でも、新しいスタンドはさらに重い。と言うかクソ重たい。

こう言う作業をやる時は、男手が多いに越した事は無い。四人がかりで交換。

いざ、音出し。

「、、、、。」

これは困った。相当な変化である。トランスポーズの違いなんかより、遥かに大きい変化だ。

スピーカーの足元を固める。

この基本がいかに大事か、思い知らされた一瞬であった。

アカデミー1はますます快調で、もう堂々たる音を轟かせて(?)いる。

無意味にデカイスピーカーを使いたがる輩(あ、俺の事?)に聴かせてあげたい音である。

そんなこんなで時間は過ぎるが、これで終わりではない。今日は実に具の多い、オーディオ三昧の一日なのである。

タオックのスタンドは緒方さんの所に行く事になっているので、それを車に積んで、もう一度山本さんのスタジオへ。

千葉から東京への移動である。

今度は横田さんの手で組み立ったばかりの上杉アンプを試聴するのである。

もちろん横田さん宅でも聴いたが、とどめに山本さんのスタジオで試聴する手筈となっている。

さて、とっぷりと日も暮れるころ、スタジオに到着。

真空管を差して、ケーブルも差して、いざ音出し。

「、、、、。」

悪くは無いが、やはりまだまだ遠慮勝ちな鳴り方。

しかし、これは無理もない。今まさに、生まれたてのアンプなのである。

エージングゼロで評価されたのでは、アンプだって不本意。

それが何より証拠には、一時間近く鳴らしていたらかなりほぐれて来た。

と言う所で、オーディオ尽くしの一日も終わり。帰路に着く。

なにかと収穫の多い一日であった。

移動の車の中でも、面白い話しがたくさん出たが、書ききれない。

山本さん、横田さん、緒方さん。それぞれにオーディオを軸に、人生を楽しまれている。

素晴らしい事ではないか。

ついでに、と言うか、おまけにと言うか、横田さんからFE−206Sをお譲りいただいた。

結局またしても物が増えたのも確かである。


2月も終わりに近づいたある日の事。会社の近所のリサイクルショップに顔を出す。

僕はこう言った所を覗くのが、たまらなく好きなのだ。

慣れているから店内を見渡すのも早い。パーっと見てしまう。

まあ、大抵ミニコンポ位しかないのだが、この日は目の端に何かが引っかかった。

「!」、SY−77があるではないか!。

これはびっくり。往年の銘器がこんな所に転がっているなんて!。何てことだろう。

近づいて、まじまじと見る。確かにSY−77だ。

多少汚れてはいるが、致命的な傷もない。

早速店員さん(と言ってもご夫婦二人でやっている)に声を掛けて電源が入ることだけは確認して購入。

チェック済みと言うが、はなっから信用してない。第一他にまともなメインアンプもプリメインアンプも無いのに、どうやってチェックするというのか?。

などと細かい事は言わないのがこう言った所でお買い物をする時のお約束。

とっとと持って帰る。

さて、リファレンスのプリ、PRA−2000と差し替えて試聴。

ボリュームに酷いガリが無いのがわかって、まず安心。

で、すぐに試したかったのがトーンコントロール。

ネッシーの低音不足を解決するために、一番単純で手っ取り早い方法が、トーンコントロールの活用。

しかし、PRA−2000にはトーンコントロールは無い。

他にP−308RSがあり、これには優秀なトーンコントロールが付いているが、音の傾向が僕の好みとは少し違う。

SYはどうか?。そればかりを考えて持って帰ってきたと言っても過言ではない。

愛聴盤の、斉藤徹、コントラバスソロのCDを掛けてトーンコントロールのバスをグイっとひねる。

!。思わずにんまり。もりもりと凄い低音が出て来る出て来る。

表現が難しいが、ずばり、つぼにはまった感じ。

こりゃあ、たまらん。と言うのであれこれCDをとっ変え、ひっ変え掛ける。

う〜ん、素晴らしい。実にたっぷりした低音が堪能出来る。しかも切れもいい。

後で調べた所によると、このトーンコントロールは、かなり低い所と高い所を中心に効いてくれる設定。

しかもツマミのワンステップが2dB刻みと明確なのもわかり易くて良い。

まあ、これまでの経験からすると、トーンコントロールだのラウドネスだのと言うのは、単純にターンオーバー周波数だの、ボリュームカーブだのでは表現し切れない部分があり、つぼにはまるかどうかは、正に、試してみないとわかりません、の世界だ。

それが、ピタっと来た。これはラッキーである。

しかし、問題が無いでもない。

第一にSY―77にはMC入力が無い。

そう、SY−88以降で無いと、MCは対応していないのである。SY−77が出た年は、国内でMCカートリッジがブレイクする直前だったのである。

あと、トータルでの音がPRA-2000と比べてどうかと言えば、やはり2000の方が好みである。

それに、音とは関係無いが、SY−77のルックスは、お世辞にも良いとは言えない。というか、はっきり言って不細工のひとことである。

それでも、とやかく言いながらも、約1ヶ月、このプリはリファレンスを勤めている。

よく言えばPRA-2000より、ウオームであるし、何よりローブースト型の音を作れるのが嬉しい。

ボリュームが、アッテネーター式で、その節度あるクリック感がまた良い。

僕はこう言うところに弱いのだ。

とにかく、このプリが来てから何が変わったかと言えば、馬鹿みたいにデカイ音を出さなくても、音を楽しめるようになった所であろうか。

低音不足だと、どうしても相対的に音量が上がってしまうのである。

ゆったり椅子に身を沈め、まったりとした音に浸る。

かなり幸せな時を過ごさせてもらっている。

これは思わぬ拾い物。しばらくはこのまま楽しませてもらおう。


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